ストレスに反応する神経回路の個体差を発見

 富山大学大学院・生命融合科学教育部・認知情動脳科学専攻の大学院生・兼本宗則(現国立研究開発法人・国立長寿医療研究センター・老化機構研究部・博士研究員)と学術研究部(医学系)解剖学・神経科学・教授の一條裕之らの研究グループは、大脳基底部のストレスに反応する神経回路の個体差を明らかにしました。本研究は、同じ刺激に対しても個体によって異なる情報処理をおこなう、脳の高次機能の個体差の研究につながることが期待されます。

成果のポイント
ストレス刺激に反応して活動する新しい神経細胞の集団を、大脳基底部に発見し、SLEA-zNCと名付けました。
SLEA-zNCは全てのマウス個体で観察され、それぞれの個体における位置は不変でしたが、個体ごとに異なる位置にありました。
本成果はストレスなどの環境刺激を処理する情動の神経回路の長さが、個体ごとに異なっていることを示し、脳の高次機能の個体差についての神経回路基盤の研究に役立ち、個性についての研究に結びつくと期待されます。
研究の背景と概要
 同じ環境においても、私達一人ひとりが感じることや考えることは異なります。これは脳の情報処理に個体差があるためと考えられます。動物における脳の構造と機能の個体差は、扁桃体などの部位で報告されていますが、神経回路レベルでの細かな個体差は調べられておらず、扁桃体以外の脳部位における個体差の研究はほとんどありませんでした。また、脳の個体差が、異なる情動や行動を表出する機構を示唆するアイデアは乏しいものでした。
 一條教授らの研究グループは、マウスにおいてストレス刺激に反応する神経細胞を、最初期遺伝子の発現によって探索し、大脳基底部のレンズ核下拡大扁桃体(sublenticular extended amygdala、 SLEA)という領域に、GABA作動性神経細胞とその他の細胞から構成される最初期遺伝子Zif268/Egr1陽性の神経細胞クラスターを新しく発見し、SLEA-zNC(sublenticular extended amygdalar Zif268/Egr1-expressing neuronal cluster)と名付けました。SLEA-zNCはストレス刺激に応じて細胞の活動性が増大し、その反応が抗不安薬のジアゼパムによって抑制されたので、ストレス情報処理に関わる神経回路に参加していると考えられます。研究グループは異なった時間経過で発現する二つの最初期遺伝子(Zif268/Egr1とcFos)を利用して、SLEA-zNCの活動の時間経過を解析し、1個体におけるSLEA-zNCの位置が不変であることを示しました。さらに、その位置を脳座標の中でマッピングし、SLEA-zNCが個体ごとに異なる場所にあることを示しました。
 個体は同じ神経細胞クラスターを利用して情報処理を行っていますが、個体ごとにクラスターの配置が異なっています。
 研究成果は、科学雑誌「Frontiers in Neural Circuits」(5月28日)にて公開されました。

プレスリリース [PDF, 501KB]