血管新生因子SDF1による肥満抑制の新機構

国立大学法人富山大学学術研究部(薬学・和漢系) 笹岡利安(ささおか としやす)教授、和田努(わだつとむ)講師、渡邊愛理(わたなべえり)大学院生らは、「肥満病態における脂肪組織の肥大化機構」を検討し、その制御に間質細胞由来因子1(SDF1)(※1)が重要な役割を果たすことを発見しました。内臓脂肪組織の蓄積は、メタボリックシンドロームや2型糖尿病などの様々な生活習慣病を引き起こします。脂肪組織は栄養状態によりその体積を10倍以上に拡大できますが、そのためには脂肪組織に酸素や栄養を供給する血管の発達が不可欠です。当研究グループは以前、この血管新生が血管新生因子PDGF-Bにより開始する機序を解明しました。本研究では、この脂肪肥大化に関わる血管新生のブレーキ役として血管新生因子SDF1を見いだし、新たな肥満の制御因子としての重要性を明らかにしました。

血糖低下に重要なインスリンが、食後速やかに分泌されるように働く腸管ホルモンのインクレチンは、蛋白分解酵素DPP4(※2)により分解されます。よってDPP4阻害薬は、インクレチンの効果を高める抗糖尿病薬として、現在本邦で最も幅広く使用されています。インスリンやインスリン分泌を促進する多くの薬剤が長期投与により体重増加を来しやすいのに対し、DPP4阻害剤は体重増加を起こしにくいが、これまでその理由は不明でした。

SDF1も通常、生体内ではDPP4により速やかに分解されます。マウスへのDPP4阻害剤投与はSDF1の分解を抑制し、内臓脂肪での血管新生を顕著に阻害して肥満を軽減しました。このように肥満病態では、増加するDPP4がSDF1を分解して脂肪組織の血管の発達を阻害できないため、さらに肥満が加速する新たな肥満の進展メカニズムを解明しました。以上、DPP4作用阻害によるSDF1作用促進は肥満を改善することから、糖尿病をはじめとする、肥満に伴う様々な生活習慣病に対する新たな治療標的として、SDF1の重要性が示されました。

今回の研究成果は、科学専門誌Angiogenesis (アンジオジェネシス)電子版において掲載されました。

(※1)SDF1(間質細胞由来因子1)
主な作用は血管が狭窄した虚血部位や癌病変などに、新しい血管の基となる前駆細胞を動員する血管新生因子であり、別名CXCL12とも呼ばれる。
(※2)DPP4
食後の潤滑なインスリン分泌に重要な腸管ホルモンのインクレチンなどの蛋白を分解する酵素。その阻害剤は糖尿病治療薬として広く使用されている。またSDF1もDPP4により分解される。

プレスリリース [PDF, 570KB]