量子暗号装置の安全性の穴を塞ぐ新理論を確立

富山大学学術研究部工学系の玉木潔教授らは従来の量子暗号装置に存在していた安全性の穴を塞ぐための新理論を提案し、実装置を用いた量子暗号通信の安全性を厳密に保証するための道筋を立てました。

量子暗号は、量子暗号通信用に作られた専用の暗号装置を使うことにより、如何なる盗聴からも通信内容を保護することができる究極の暗号です。この究極の安全性は、量子暗号の安全性理論が課す条件を暗号装置が満たして初めて達成されるのですが、既存理論が課す条件は厳しく、実際の暗号装置がそれらの条件を完全に満たすのは困難でした。

既存理論が課す厳しい条件の一つに、暗号装置が送信パルスへ施す処理(変調)が過去に施した変調に一切依存してはならない、というものがあります。残念ながら、実際の暗号装置においてこの依存性を完全に消去することは困難であるため、実際の暗号装置の安全性保証は厳密な意味ではできていませんでした。

今回の研究では、変調依存性の影響を取り入れた新たな安全性理論の構築に成功しました。この理論が与える処方箋に従うことにより、変調依存性がある実際の暗号装置によって安全な通信が行えることになります。更に、変調依存性のみならず、暗号装置から情報を直接盗もうとするトロイの木馬攻撃などの様々な攻撃下でも、安全かつ高速な通信を行う方法を与える一般的な安全性理論をも構築しました。これらの新理論により、実際の装置を用いた量子暗号通信の安全性が今後更に確固たるものになることが期待されます。

本研究はNTTコミュニケーション科学基礎研究所の加藤豪博士、三菱電機の水谷明博博士、ヴィーゴ大学(スペイン)のマルコス・カーティー教授のグループと共同で行ったものです。

本研究成果は、2020年9月9日に米国科学誌「Science Advances」のオンライン版で公開されました。

本研究は科学研究費助成事業、基盤研究(S)「百年以上の超長期秘匿性を保証する情報通信ネットワーク基盤技術」(研究代表者:北海道大学、富田章久教授)及び科学技術振興機構(JST)「量子状態の高度な制御に基づく革新的量子技術基盤の創出」領域「グローバル量子ネットワーク」(研究代表者:大阪大学 先導的学際研究機構,井元信之特任教授)の一環として行われました。