平成28年度学位記授与式 学長告辞

告辞

 厳しい冷え込みの日々が過ぎ、富山の地にも春の兆しが感じられる季節となりました。卒業生・修了生の皆さん、そして学生諸君を支えてこられたご家族の皆様、本日は誠におめでとうございます。
 ただいま、学部卒業生1,794名、大学院修士課程修了生301名、博士課程修了生44名、論文博士4名、計2,143名に学位記を授与致しました。この中には、59名の留学生の方が含まれています。2,000名を超える若者が、富山大学から、それぞれの道に巣立つこの良き日を迎えることができること、私ども教職員にとっても大きな喜び、感激であります。富山大学を代表し、心からお祝い申し上げます。また卒業生、修了生の門出を祝福するため、ご多忙にも関わらずご臨席を賜わりましたご来賓の方々や本学ゆかりの皆様方には、厚く御礼を申し上げます。

 本日卒業・修了の日を迎えられた皆さんは、科学・情報技術が凄まじいまでに進歩を遂げた革新と変革の時代を生き、成長してこられました。多くの方々は神戸大震災のあった1995年のお生まれです。皆さんは、進歩がもたらした物質的・経済的豊かさや便利さを享受する一方で、2011年の東日本大震災や昨年の熊本地震も経験し、また原発事故や地球温暖化等、科学技術が産み出した社会的歪みや不確実さを身近な事象として感じてこられました。さらに近年は、急速なグローバル化・自由貿易の拡大が進む一方で、多くの先進諸国で保護主義・排他主義の台頭があり、新たな政治的秩序・調整が生まれようとしています。このような高度で複雑な情報世界の展開は、不確実で不安定な怖さは包含しつつ、今後ともその歩みを止めることはないでしょう。インターネットはすでに社会生活において必要不可欠なものとなり、昨今急速にその存在感を増してきた人工頭脳は、人類の生き方、働き方にまで大きな影響を与えようとしています。またiPS細胞など再生医学の発展は,「人間はどこまで自らの命・運命を変えることが許されるのか」といった、命ある者の根源に関わる問題を問いかけています。
 「文明と文化」、「知能と知性」、「人工知能と人間力」など、今まさに、人を越える新たな能力と人のみが持つ人間的能力の共生を考えなければならぬ時代を私たちはむかえています。このような時代だからこそ、皆さんには単なる技術的専門家、いわゆるエキスパートやスペシャリストではなく、責任感・倫理観にあふれる真の専門家、プロフェッショナルとして、人生を歩んでほしいと願います。
 私の元々の職業は脳神経外科を専門とする医師です。ギリシャ時代の哲学者プラトンが、プロフェッショナルとしての医師と、その行為について述べた言葉を紹介します。「医師・医術とは、患者の本性を考察し、また自分の行ういろいろの処置の根拠も良く研究し、一つひとつのケースに論理的説明を与え、治療を実行することのできる技術/ARTである。」と述べています。専門領域をとわず、今も変わることなく、心に響くメッセージです。

 今社会は、新しい時代に生まれ、成長した若い力が、これからの未来創造にむけ果敢に挑んでくれることを強く、強く望んでいます。皆さんがそれぞれに進む分野において、大学で身に付けた知識・技能・経験を糧に、研鑽・奮闘を重ね、人々のため社会のため貢献するプロフェッショナルとして活躍してくださることを願います。

 門出に際し、大切にしていただきたい生き方・考え方について2点述べます。

 第一はプロフェッショナルとして、自己努力、自己改革のできる生き方です。
 自らを客観的に見つめる視点と向上心を持ち、高い目標を設定し、努力、挑戦を重ねる姿勢を大切にしてください。ネットから容易に得られる大量の情報は、どんなに貴重なものであっても全ては過去の知識の単なる集積にすぎず、プロフェッショナルに求められる「思考力」「判断力」「表現力」とは全く次元の異なるものです。もし大量の情報から「当然と思われる答え」が得られた時にこそ、その結果を安易に受け入れるのではなく、自身の創造的・批判的・思索的能力を発揮し、己の「知性」「精神」に触れる真実を探り、求めて下さい。真摯な批判精神や健全な反逆精神によって導かれる大胆な問いかけの中にこそ、他人にはない独自の回答や新たな発見があると信じます。
 2015年のラグビーワールドカップで日本チームに世界で戦う力を与えてくれた元ヘッドコーチのエディー・ジョーンズはプロフェッショナルの姿について「リスクを背負わないと進歩はない。努力せずに実力は維持できない。チャレンジするから成功できる。勇気とは慣れた自分を捨てることである」などと述べています。

 第二の点は、一人の人間として、人との直接の語り合い・ふれあいを大切にする生き方です。
 独自の思考、倫理観、思いやり、精神性などは、人との語り合い、ふれあいの中でこそ生まれてきます。しかし昨今は、情報技術が浸透し、直接に人と人とが接触する機会は減ってきました。私は、社会のもろさを補うことができる人間力の育みには、メールではなく、電話でもなく、相手の顔、目を見て直接にかわす会話・対話こそが、非常に大切と考えています。そこには社会的なコミュニケーション能力だけではなく、人への寛容さや優しさの交換が求められます。皆さん、ぜひ一人の人間として、人の思いを受け入れ、愛する気持ちを持ち、誰もが幸せに暮らせる平和な世界を築いてください。

 本日、本会場で、時間をともにした皆さんは、富山大学で同じ時代に学び、過ごした同窓の仲間です。これからも卒業生としての出会いの機会を大切にし、同窓の輪を広げていってください。
 変化していく社会の中で、国立大学への期待はあらゆる分野で益々高まっています。富山大学においても、平成30年度には教養教育の五福での一元化等、新たな改革が計画されています。富山大学は、これからも、富山県における地域活性化の中核的拠点としての役割を担いながら、世界レベルの先端的研究を推進し、新しい業績や情報を社会に発信する役割を果たしてまいります。皆さんにとって誇れる母校としてあり続けるよう、教職員とともに努力してまいりますので、これからも同窓生として母校富山大学を見守り、発展のためのご意見ご支援をお寄せください。
 皆さんが、素晴らしき人生を送られることを祈念し、学長告辞と致します。

平成29年3月23日
富山大学長 遠藤 俊郎