対談  富山大学に期待すること

左:富山大学長 遠藤俊郎 右:アイザック取締役最高顧問 中尾哲雄

「個性が輝き、信頼される大学」を目指す革新的イノベーションが進行中

 富山大学の卒業生であり、経済人・経営者として現在も第一線で活躍している中尾哲雄氏。日本のIT業界を牽引してきた中尾氏に、意欲的で多様な特色や方針を打ち出して改革を進める富山大学・遠藤俊郎学長が、「富山大学に期待すること」をテーマにお話をうかがい、富山大学の役割や将来像について考察しました。

コミュニケーションを高めるキーワードは「人際化」

遠藤学長
中尾様は、ご講演などでよく「際」という言葉をお使いです。「際」という字には、あるものとあるものを結びつけるという意味があるということで、まさに変革を目指す本学の指針を示すキーワードであると思っております。
中尾氏(以下敬称略)
インテックではこれまで、東大遺伝子研究グループとコンピュータ解析技術をもってゲノム解析の会社をつくったり、ニコンのレンズとシステムを合わせた医療機器を開発しました。多くの業際化によって、ビジネス、新サービスを創造し、会社を発展させてきました。
遠藤
いくつかの視点を結びつけながらビジネスを創造する。まさにイノベーションですね。
中尾
創造とは新しいものを生み出すことでしょうが、そう簡単にできることではありません。我々ができる創造の多くは、組み合わせること、つまり際化です。そしてその時必要なのは人と人との際化、交わりです。経営者も社員もまず人間として成長し、人間的魅力をつけていく。そのことによって多くの交流、人際化がはかられると思っています。会話、コミュニケーション能力の低い若い人々にイライラすることがありますね。
遠藤
ICT偏重の弊害ということでしょうか。
中尾
そうですね。私は長い間、日本のテレコムサービス協会の会長を務めてきました(今は最高顧問)。でもメールが好きになれないのです。通信とは、信を通わせること。メールは極めて重要ですが、真に心を通わせるには手で書いた手紙や面と向かい合うコミュニケーションだと思います。若者ばかりでなく、我々にとってもコミュニケーション能力は極めて重要です。そのためにも富山大学の教養教育には大いに期待しています。

富山大学ならではの教養教育体系を

遠藤
本学では、大学改革という視点で教養教育改革を含めた様々な取り組みを進めておりますが、教養教育について中尾様のご意見をいただけますか。
中尾
はっきり申し上げて専門科目と一般教養の関係は対等です。一般教養の土台の上に専門があるのだと思います。昨年、スタンフォード大学を視察した時、教養科目は少しずつでも全部やる、そしてその上にひとつの専門科目を “a little bit of everything and one is well”といっていました。幅広い知識によって人間的な魅力、人格向上を目指す。それが教養教育だと思っています。
遠藤
これだけ世の中が多様化しているにも関わらず、日本の教育体制は高校の時点で理系と文系に分ける傾向があります。この点はどうお考えですか。
中尾
いつも疑問に思ってきたことは、例えば経済学が何故「文系」なのかということです。経済学と数学、統計学との学際化は重要ですが、もうそれを越えて経済学には統計も数学もITも包含されています。この生徒は文系か理系かと二つに分ける高校もヘンだと思ってきました。第三の系があってもいいし、系をいわなくてもいいのではとも思います。重要なのは基本を成す教養教育の体系。人間と社会の仕組み、自然環境、そしてコミュニケーション(日本語や外国語の表現)、そしてITなど、これらを単に科目として並べるのではなく、富山大学ならではの体系を形成していただきたいと思います。
遠藤
同感です。今、新しい教養教育のカリキュラムを構築中ですので、ご指摘いただいた考え方を是非盛り込んでまいります。
中尾
「リベラルアーツ」は、文系でも理系でもないですからね。特に現代社会は複雑化していますから、専門知識と広範囲にわたる知識を合わせていくと、地域のリーダーあるいは行政でも大いに活躍できると思います。

苦しい時に蒔いた種は成功という名の実を結ぶ

遠藤
さて、本学は新川県師範学校をルーツとして、長きにわたり富山県の高等教育を担ってまいりました。そんな中で、今後どのように進むべきなのか、お考えやご意見をお聞かせいただけたらと思います。
中尾
まず、全体的な国家予算の中で、教育の占める割合が非常に低い。財政的に締め付けられているわけですから、寄附のしやすい税制も考えるべきですね。スタンフォード大学ではプロが寄付金で資金運用している例もあります。次は教授の質の向上。良い大学には必ず尊敬できる教授がたくさんいます。それと、地方創生の問題。例えば、県や市が政策を立てる場合に富山大学の教授が関わっていけばいいんです。私は今、日本ベンチャーキャピタルという投資会社でビジネスの芽になるような研究や活動を支援していますので、大学のインキュベーション機能にも期待しています。
遠藤
心強いお言葉です。中尾様は「際」を実行され、人には真似のできない創造の種をご自身で蒔き、ご自身で大きくするという情熱がおありだったのでしょうね。
中尾
大学改革の推進は難しいところもあるでしょうけれど、「成長の種は苦境の中で蒔く」が、私の持論です。富山は自然がいい。人々も心豊かです。教育の素晴らしい土壌があることを誇りに改革に取り組んでいただきたいですね。
遠藤
ありがとうございます。対談を通して、本学に対する熱い思いと「富山大学がんばれ」というエールをいただきました。感謝の気持ちとともに、今後とも、地域・日本・世界を見据え、新しいモノを生み出す楽しさを感じながら、さらなる飛躍を目指して前進して参ります。本日はお忙しい中、大変ありがとうございました。

プロフィール

中尾 哲雄(なかお てつお)
中尾 哲雄(なかお てつお)
1960年、富山大学経済学部卒。
1964年、株式会社インテックの創業に参加(非常勤)。
1993年、同社社長に就任。会長、最高経営責任者等を歴任して、現在アイザック取締役最高顧問。
富山市・魚津市名誉市民。富山大学名誉博士

遠藤 俊郎(えんどう しゅんろう)
遠藤 俊郎(えんどう しゅんろう)
1971年、東北大学医学部卒。
東北大学附属病院助手を経て、1979年に富山医科薬科大学(現富山大学)附属病院助教授、1999年に富山医科薬科大学医学部教授。
2009年に富山大学附属病院長を務め、2011年から富山大学長。
専門は脳神経外科学。仙台市出身。


関連リンク

  • 一般社団法人 国立大学協会 国立大学長と有識者等の対談