医学部案内2016
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それぞれの地域の住民を対象に健康診断をして,がんや心臓病の早期発見の方法を検討したり,食生活の改善や禁煙を指導して,その健康への効果を調査したりしています。これらのことを地域で実施するためには,学校,企業,そして市町村などの協力と,保健所,病院,医師会等との連携が必須であり,病院での患者対医師による臨床医学に対して社会医学といわれる所以です。社会医学の規模はさらに世界的にも及ぶものであり,現在,富山大学,ロンドン大学,ヘルシンキ大学の3大学合同による,脳卒中や心筋梗塞の発生と心理社会的要因に関する国際比較研究が行われています。 近年,アトピーやぜん息の子どもたちが増えています。また,アレルギーを発症する年齢が低くなっており,ふつうは成長と共に軽くなるぜん息が,なかなか治らないケースが増えています。その原因として環境要因の関与が疑われていますが,くわしいことは分かっていません。原因を明らかにしない限り,症状をとることはできても,根本的な対策をたてることはできません。「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」は,10万人を対象とし,平成22年度より富山県を含む全国15の地域で始まりました。この調査は,子どもをとりまく環境要因が,子どもの健康や発育に及ぼす影響を明らかにするために行うものです。エコチル調査により,からだにとってよくない環境要因が明らかになれば,病気を予防するための対策につなげるなど,生まれてくる子どもたちが,健やかに育つ環境を整備するために役立てることができるのです。 人の生命は事故や自殺あるいは犯罪によって著しく障害され,また,突然死した場合には犯罪の関与が疑われますが,これらの悲しい出来事は個人を取り巻く生活環境に依存して発生します。法医学講座ではこれらのご遺体を解剖し,死因を究明すると共に,犯罪の証拠採取を行っています。これらの資料は刑事責任だけでなく,損害賠償責任の判定をも支えます。また,突然死の原因は病気であることが多く,その死因究明は突然死の予防対策を考える資料提供にもなります。その他,血液型やDNA型の研究等,現代医学の最先端の研究も行っています。 これまで述べてきたことからもおわかりのように,社会医学は基礎医学,臨床医学と並んで医学の一端を担っています。そして,社会医学では,パブリック・ヘルス・マインドと幅の広い視野を持てる人材を養成し,かつ国際的な視点が持てる教育を目指しています。社会医学をライフワークとして選択した医師の中には,保健所等や厚生労働省へ入って国民の健康回復や増進に貢献している方も多いのです。社会医学の発達は,国民全体の健康の維持・増進につながります。樹々1本1本を丁寧にみることと併せて,森をもみられる医師づくりに貢献したいと願っている社会医学の仲間達なのです。9基礎医学Fundamental社会医学Social臨床医学ClinicalScience&Art保健医学の発表風景

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