富山大学医学部案内2021
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日本が,世界有数の長寿国になれたのは,戦後の日本社会において教育水準や経済水準の平準化が進められたことにあると考えられています。実際,欧米諸国の中で,平等主義的な政策をとる北欧諸国は,自由主義的な政策をとる米国や英国よりも,社会経済格差が小さく,教育水準が高く,乳幼児死亡率が低く,平均寿命が長いことが知られています。このように,人の健康は,社会の仕組みや人々の生活と密接な関係にあります。社会医学は,人文社会系を含めた広範な学問分野との連携・協働によって,社会の仕組みや人々の生活の改善を通じて,疾病の発生を予防し,「平均寿命」に代表されるような社会全体の健康水準の向上を目指しています。また,保健・医療・福祉・介護における社会制度の構築や管理・運営を通じて,安全で安心な社会の構築に貢献しています。人々の生活環境は絶えず変化します。そのため,社会医学が対象とする内容も,時代とともに変化してきました。たとえば,戦後間もないころは,貧困や劣悪な生活環境を原因とする結核などの感染症が多く,その対策が中心でした。その後,日本は,高度経済成長を経て豊かな国となりました。しかし,その結果,肥満,糖尿病,メタボリック症候群,心臓病,脳卒中,がんなどの生活習慣病が増加しました。また,国民皆保険制度が導入されて,国民すべてが平等に一定水準以上の医療を受けられるようになりましたが,その結果として医療費も増加しており,対策が求められています。長寿は幸福なことですが,認知症も増加しています。さらにはグローバル化によって,健康問題の解決に国境を超えた協力が必要となっています。本学の社会医学系の講座では,時代によって変化する社会医学的な課題に対して,富山県や各種団体と連携・協働しながら,調査・研究の実施や施策立案への協力等を通じて社会に貢献をしています。小児保健領域の調査・研究としては,富山県を含む全国15の地域で約10万人を対象とした「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を実施しています。この調査は,子どもをとりまく環境要因が,子どもの健康や発育に及ぼす影響を明らかにするために行うものです。近年,アトピーやぜん息の子ども達が増えていますが,原因を明らかにしない限り,症状を緩和することはできても,根本的な対策をたてることはできません。体に良くない環境要因が明らかになれば,健やかに育つ環境を整備するために役立てることができます。また,子どもを対象とした対象者数が1万人規模の調査を複数行っており,睡眠不足が小児生活習慣病のリスクとなることや,インターネット依存の実態,望ましい生活習慣を持つ子どもの社会経済環境や家庭環境を明らかにしました。これらの調査結果は,学校保健施策等を介して,子どもの健康づくりに役立てられています。社会医学の立場から~社会の健康~社会医学とは小児保健領域エコチル調査サマーフェスタGUIDANCE14

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