富山大学医学部案内2021
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成人保健領域の調査・研究としては,約5千人の地方公務員を対象として,心理社会的ストレスやワークライフバランスの心身への影響を調査しています。この研究は,英国のロンドン大学ユニバーシティ・カレッジおよびフィンランドのヘルシンキ大学との国際共同研究です。その結果,日本の労働者は,労働時間が長く,ワークライフバランスが悪いことがわかり,それが日本の労働者の睡眠やメンタルヘルスに悪影響があることが分かりました。日本,英国,フィンランドという国家の体制や保健医療システムの異なる国を比較して類似点や相違点を明らかにすることで,それぞれの国の特徴がよく分かり,疾病対策につなげやすくなります。高齢者保健領域では,約1.3千人の富山県の高齢者を対象とした調査において,短い教育歴や肉体労働の職歴,糖尿病などの生活習慣病の既往歴が,認知症の発生リスクを高めることを明らかにしました。また,高齢者の歯の喪失は,偏食や少食を介して筋力の低下や虚弱を引き起こして高齢期の生活の質(QOL)を低下させることから,歯の喪失原因を明らかにしたところ,認知症のリスクとほぼ同様の結果となりました。以上から,高齢者の健康を維持するためには,小児期からの一生涯にわたる分野横断的な施策が重要であることが分かりました。また,看護学科の教員と連携して,人々が住み慣れた地域で人生の最後まで健やかに暮らすための地域包括ケアシステムの推進に取り組んでいます。安全で安心な社会を構築するためには,人々の人権を守るための法医学が重要になります。人の生命は事故や自殺あるいは犯罪によって著しく障害され,また,突然死した場合には犯罪の関与が疑われますが,これらの悲しい出来事は個人を取り巻く生活環境に依存して発生します。そのため,これらのご遺体を解剖し,死因を究明すると共に,犯罪の証拠採取を行っています。これらの資料は刑事責任だけでなく,損害賠償責任の判定をも支えます。また,突然死の原因は病気であることが多く,その死因究明は突然死の予防対策を考える資料提供にもなります。その他,血液型やDNA 型の研究等,現代医学の最先端の研究も行っています。中国古代の医書に「小医は病を癒し,中医は人を癒し,大医は国を癒す」とあります。社会医学は,いわば国を癒す学問であり,「社会の健康」に貢献する学問です。そのため,社会医学者は,教育機関で教育や研究に従事している人だけではなく,厚生労働省等の行政機関の医師として国民の健康増進に貢献している人も多くいます。さらには世界保健機関(WHO)のような国際機関で活躍している人もいます。1本1本の木を丁寧にみることとあわせて,森をもみられる医療人の育成に貢献したいと考えています。基礎医学Fundamental社会医学Social臨床医学ClinicalScience&Art地域包括ケアシステムに関する研究発表成人保健領域高齢者保健領域法医学領域大医は国を癒す15

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