理学部案内2020
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研究者レポート13■研究テーマとの出会い 高校では化学の無機分野が好きで、「分光」という技術にも興味を持っていたんだ。だから、原子・分子にレーザーを照射して、分光を行い、どのような結果になるのかを調べるレーザー物理研究室の見学に行ってみたわけ。すると研究室ではお茶会が開かれていて、雑談や情報交換が盛んに行われていた。仲間同士の距離が近く、和気あいあいとした雰囲気が決め手になったね。研究テーマは、「CaH分子の電子状態」を調べること。難しい分野を自分で調べるのは面白いと思ったことや、研究室の森脇喜紀教授の勧めがあったことが今の研究テーマを選んだ理由だね(谷さん談)。■キーテクニック、分光法 光の三原色は赤、緑、青である。3色を混ぜると白になる。同様に、普段見ている光は赤、緑、青などの複数の色の光から成り立っているのだ。それぞれの色の光が持つ性質を利用して、成分ごとに分けることを分光という。谷さんは、この分光という技術を駆使して研究をしている。■レーザーで分子の性質を探る 谷さんが研究対象にするCaH分子はカルシウム原子1つと水素原子1つが直線上に結合した構造をしている。通常はカルシウム原子に結合する水素原子は二つと決まっているが、CaH分子は地球上には存在しない星間物質の一つだ。星間物質とは、宇宙空間に薄く広く存在する物質で、宇宙の成り立ちを知るのに役立つ情報を持っている。 研究の目的は、そのCaH分子の電子の状態によって観測される特徴的な光を調べることだ。CaH分子が出す光のデータを蓄積することにより、宇宙から来た光がCaH分子から出た光なのかどうかが分かる。この原理を利用して、ある天体にどれだけのCaH分子が含まれているのかも知ることが出来る。それを手掛かりに天体の生成過程を予測でき、宇宙の謎の解明にも貢献できるかもしれない。 では、実験手順をみていこう。まずCaH分子をつくるために真空中で水素ガスとカルシウムを反応させる。CaH分子が出来たら、多様な光を出すことができる色素レーザーを照射し、分子にエネルギーを与える。分子は高いエネルギーを与えると不安定な状態になるため、安定な状態に戻ろうとする。その時、光や熱などの形で分子からエネルギーが放出される。 CaH分子に限らず、分子は特有の光を出す。その成分を調べる「分光法」により、CaH分子から出る光の成分が特定され、各色の光の量を調べることによりCaH分子中の電子の状態まで、知ることが出来るのである。 谷さんは楽しそうにこう語った。「全てのものは分子から構成されています。新しい分子の性質を発見することは、世の中の全てのものに関する発見につながると思います。私の研究テーマはまだ分かっていないことが多い分野です。自分で知りたいことを研究し、新しい発見が出来ると楽しいです。」■後輩へのメッセージ 一般企業に就職する谷さん。研究でプレゼンテーションを重ねてきた経験を、入社後も活かしていきたいという。そんな谷さんが今後の進路について考えている後輩へのメッセージをくれた。 「勉強を単なる課題だと思わないようにしてほしいと思います。同じ勉強でも自分から調べる時には面白いと感じます。だから、自分で気持ちや見方を変えて、勉強を楽しむ姿勢を身につけてほしいです。」■Q&A・研究を通して身についた力はありますか?→真空ポンプ、ガスボンベ、レーザーなどの実験装置の取り扱い方ですね。あと、プレゼンテーション能力かな。・研究で難しいことは何ですか?→各操作手順と、その手順がなぜ必要なのか、どんな目的で行われるのかを理解し、結びつけることでした。・研究で心掛けていることはありますか?→レーザーや真空ポンプなど事故につながりやすい装置を使っています。そのため、気持ちが焦ったり、イライラしたりしないように落ち着いて実験をすることを心掛けています。谷 伊織富山大学大学院理工学教育部修士課程物理学専攻2年出身:富山県  趣味:読書、ツーリング好きな食べ物:和菓子、魚料理実験装置と谷さんinterviewer〈たに いおり〉レーザーで宇宙を見る研究者レ学生による学生̶理学部の若き研究者たち理学部の学生は、どんな研究をして学生が先輩たちに研究内容をインタすく紹介した記事を掲載します。Report

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