理学部案内2020
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研究者レポート14立山連峰の高山環境(佐藤さん提供)高山に生きるヤマナメクジ(佐藤さん提供)佐藤 真富山大学大学院理工学教育部博士課程地球生命環境科学専攻2年出身地:宮城県  修士時代の研究テーマ:モグラの進化座右の銘:継続は力なり  趣味:猫、カラオケ、硬式テニスinterviewer〈さとう しん〉■標高三千メートルのナメクジ 立山連峰の高山帯にナメクジが生息していることをご存知だろうか。冬場は数メートルの積雪に埋もれ、夏場は猛烈な紫外線が降り注ぐ過酷な環境の中で、あのナメクジが生きているのである。自然界の原則は、“適者生存”である。移動能力も防御力も低そうに見える彼らだが、実際は立派に高山生態系に適応しているのだ。 富山大学大学院理工学教育部、山崎裕治准教授の研究室に在籍する佐藤真さんは、ナメクジ類をはじめとした陸産貝類を対象に、DNAから生物の環境適応や進化について研究している。「高山帯と低い山では、植生、積雪量、紫外線の強さなどが違います。どのような環境要因が遺伝子の変化と関わっているのかを、生物のDNAを標高帯ごとに分析し、比較解析することによって解明しようとしています。」■立山連峰というフィールド 佐藤さんは山形大学を卒業後、長野県の博物館学芸員を経て富山県へ移住した。研究のフィールドとしてこの地を選んだ理由は、立山連峰が研究に適した場所であるからだ。「立山にはアルペンルートが整備されていて、高山帯へ頻繁に通うには理想的なフィールドです。また、狭い範囲に立山連峰の急勾配があり、多様な環境が存在しています。」 佐藤さんは現在、立山連峰の様々な標高に生息するヤマナメクジから遺伝子を採取し、比較している。「高山帯の一部の植物は、遺伝的多様性が低くなることや固有の遺伝的変異を持っていることが知られています。ナメクジも植物ほどではないですが移動能力が限られているため、高山帯のナメクジは低地のナメクジとは遺伝子が大きく異なり、多様性が低下していることが分かってきました。」生物が環境に適応する過程では、遺伝子の変異が伴うことが多い。このような変異は生物進化のメカニズムについて重要な知見をもたらすだけでなく、将来的に新たな種への分化へと繋がる可能性もある。■環境と遺伝子 ヤマナメクジは、日本では北海道以外の地域に広く分布している。佐藤さんは今後、標高だけでなく緯度経度に沿ったヤマナメクジの遺伝子の違いも調査していく予定だ。「今は立山だけで研究をしていて、簡単に言えば一つの山の中で遺伝子の比較をしているだけなんです。これだと、得られた傾向が立山限定のものなのか、他の山でも同様に見られるものなのかが分からない。そのため、できれば立山以外の山でも比較解析を行いたいです。」と話す。佐藤さんは、標高に沿った遺伝子の変化と緯度経度に沿った遺伝子の変化の情報を組み合わせることで、山の環境とそこに住む分散能力の低い動物の進化や適応について探りたいという。■見た目が好まれない生物種でも 佐藤さんはナメクジの研究に対する想いをこう語る。「高山帯に住む生物がどうやって生きているのかに興味があります。高山帯というと、動物ではライチョウやオコジョ、植物ではチョウノスケソウやコマクサなどが有名だと思いますが、そういった綺麗で可愛い動植物だけではなくて、見た目が好まれないような生物の研究も環境保全の情報を提供する上で重要だと思います。」DNAから進化を探るこれらの研究紹介記事は以下の講義で作成したものです。「科学コミュニケーションII」 主講師:元村有希子(毎日新聞社科学環境部長)              担当教員:川部 達哉(数学科)、島田 亙(生物圏環境科学科)ポートのためのの最新情報を公開̶いるのでしょうか? ここでは、ビューし、その内容を分かりや

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