◆日本海の成立 これまでに分かっている日本海の形成過程や日本列島の形成史によれば,かつて日本列島はユーラシア大陸の一部で,約2500~2000万年前に日本列島とユーラシア大陸の間に溝が形成され,それが徐々に拡大し,今の日本海が形成されたようです。日本海の拡大が終息した1000万年前には,日本列島の分布は現在の弧状に近い配置になっていましたが,西日本は朝鮮半島と陸続きで,東日本の大部分は海面下にありました。つまり,当時の日本海は,北日本側に開いた湾のような形状をし,海峡深度も深く,日本海と太平洋との間で深層水の交換があったとされています。しかし,1000万年前以降,東日本~北海道地域が徐々に隆起し,太平洋と日本海の間にあった海峡が徐々に縮小・浅海化して,現在のような半閉鎖的な日本海が作られました。 日本海が太平洋と分離し,閉鎖的になっていく過程は,東北日本の隆起活動や日本列島の形成と密接に関係していますが,いつ頃,そしてどの程度の時間スケールで起こったか,については実はよく分かっていませんでした。そこで,我々の研究グループでは「海水の由来」を判別できるネオジム同位体比に着目して,日本海の閉鎖時期を解析することにしました。これは,日本海が閉鎖的になれば,太平洋からの海水の流入が制限されるため,日本海深層水の化学組成が太平洋と異なるようになる,この変化をネオジム同位体比から明らかにできるのではないかと考えたからです。◆「海水の由来」を判別できるネオジム同位体比 海水に溶けているネオジム(Nd)は,岩石中のネオジムが水との反応で溶け,河川を通じて海洋に供給されます。岩石には,ネオジムだけでなく,様々な元素が含まれ,サマリウム(Sm)という元素も含まれています。ネオジム同位体比を考える際に,このサマリウムという元素が重要になってきます。サマリウムには,質量数147のサマリウム(147Sm)があり,放射壊変(半減期1.06×1011年)によって,質量数143のネオジム(143Nd)に変化します。 例えば,Sm/Nd比が低い花崗岩では,147Sm→143Ndへの壊変による143Nd量は少ないので,143Nd/144Ndの比で表すネオジム同位体比は低い値を示します。逆に,Sm/Nd比の高い火山岩では,147Sm→143Ndへの壊変量が多く,生成される143Nd量も多くなるため,ネオジム同位体比が高くなります。つまり,岩石の種類や岩石の古さによって,岩石のネオジム同位体比はそれぞれ異なっていて,その岩石から溶け出たネオジムの同位体比は,河川を通じて,隣接する海水のネオジム同位体比として記録されます。このように陸域の岩石の影響を受けて海水のネオジム同位体比が異なるので,北大西洋を流れる深層水は‒12εNd,南極周辺を流れる底層水は‒9εNd,北太平洋を流れる深層水は‒4εNdのように,それぞれ異なった値を示しています。つまり,海水のネオジム同位体比が‒12εNd程度であれば,その海水は北大西洋に由来するであろうということが推察できます。◆魚の骨に記録される海水のネオジム同位体比 陸から遠く離れた海洋底では,1000年間でおよそ1cm程度の早さで堆積物が降り積もっていきます。このような堆積物を50cc程度取って顕微鏡でのぞくと,0.1~0.3mm程度の魚の歯や骨片を十数個,場合によっては百個程度見つける̶ 日本海は450万年前に太平洋と分離した ̶日本海の成り立ちに迫るRESEARCH TOPICS15RESEARCH TOPICS
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