理学部案内2020
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ことができます。0.1~0.3mmの骨片が数十個というのは,量としては非常に少ないですが,魚の歯・骨には海水のネオジムが濃縮しており,同位体比情報もしっかりと記録されます。さらに海底面で歯・骨に記録されたネオジム同位体比は,仮に歯・骨が海底面下400mまで埋没したとしても,泥の中で1000万年経ったとしても,保持されるのです。したがって,ある海域の1地点で海底堆積物を採取し,各時代の堆積物から歯・骨を拾い集め,それらのネオジム同位体比を分析すれば,ネオジム同位体比から,当時海底面を流れていた「海水の由来」を知ることができます。◆日本海は,いつ太平洋から分離したか? 私たちは,2013年に統合国際深海掘削計画(Integrat-ed Ocean Drilling Program(IODP)346次航海)において,日本海中央部の大和堆で掘削された堆積物試料(過去1000万年間で堆積した全長約400m)を対象として,魚歯・骨片化石のネオジム同位体比を分析しました。ネオジム同位体比から,試料を採取した日本海中央部の深層水が,いつ頃から北太平洋(ネオジム同位体比高い)や南太洋に由来(ネオジム同位体比やや低い)する外洋の海水の影響を受けなくなったのかを調べようとしました。 日本海のネオジム同位体比は,1000-850万年前は,北太平洋に由来する海水(ネオジム同位体比高い)の影響を受けていて,450万年前までは,南太洋に由来する海水(ネオジム同位体比やや低い)の影響を受けていたことを示していました。さらに,興味深いことに,450万年前には,日本海のネオジム同位体比が約14万年間で大きく低下していたことも明らかにしました。これは,高いネオジム同位体比をもつ太平洋の海水が,日本海に流入しにくくなったことを示しています。 450万年前前後は,ちょうど太平洋プレートの運動が活発で,プレート縁辺にあたるニュージーランドやパプアニューギニアなどで造山運動が盛んだった時期にあたり,東北日本でも造山運動が活発だった時期と重なります。そのため,今回得られたネオジム同位体比データと併せて考えると,450万年前頃に東北日本の隆起により,太平洋と日本海を繋いでいた海峡が14万年程度の期間で浅海化・縮小し,日本海と太平洋の海水交換が減少したと考えられます。つまり,深層水の交換において,日本海と太平洋の分離がこの時期に起こったと言えます。 日本海の形成史や日本列島の形成史は,日本海海底にある大陸地殻の厚さと形,地磁気縞,断層の走向と分布,陸上岩石の古地磁気や日本海海底堆積物に残された微化石記録を多くの研究者が丹念に調べ復元されてきました。本研究は,これまでの知見に加えて,「海水の由来」を探れる新しい地球化学的な手法を用いることで,日本海の閉鎖史をこれまでよりも高い時間解像度でかつ鮮明に描きました。生物圏環境科学科准教授 堀川 恵司RESEARCH TOPICS16参考文献Kozaka, Y., Horikawa, K., Asahara, Y., Amakawa, H., & Okazaki, Y. (2018) Late Miocene‒mid-Pliocene tectoni-cally induced formation of the semi-closed Japan Sea, inferred from seawater Nd isotopes. Geology, 46, 903-906.理学部ホームページ上で研究トピックスを掲載しています。是非訪れてみてください。学科紹介ムービーをスマホ・携帯電話でご覧になれます。海底堆積物から産出する魚の歯や骨片の化石

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