理学部案内2023
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アインシュタインの宿題に挑む!このページでは、学生が先輩たちにインタビューし、研究内容を分かりやすく紹介します。 2015年、重力波の観測により連星ブラックホールの合体を精密にとらえた。重力波には、宇宙の謎に迫る新たな「目」の役割を期待されている。山下さんは日本での重力波の観測に向けた装置の開発に携わっている。物理学からみた重力波観測の意味 かのアインシュタインが提唱した「一般相対性理論」は、宇宙や天体など大きなスケールの世界での現象を説明するのに欠かせない。この理論を検証するためには、重力波を精度よく観測することが重要である。重力波を用いることで、これまで観測できなかった遠くの宇宙の様子が見えたり、新たな仮説が生まれたりするかもしれない。その意味でも重力波研究は、物理学の発展に貢献する可能性がある。ところで重力波って? 重力波とは、時空のゆがみが波のように伝わっていく現象である。しかしこの波はとても小さく、例えるなら地球と太陽の距離に対して水素原子一つ分の変化に過ぎない。そのような重力波を観測するため考えられたのが、重力波望遠鏡だ。山下さんは、岐阜県飛騨市の旧神岡鉱山に建設された大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」による、重力波観測を目指す一人だ。大型低温重力波望遠鏡KAGRA 重力波をとらえるには、マイケルソン干渉計の仕組みを使う。レーザー光源から出た光がビームスプリッターで二方向に分けられる。(緑色とオレンジ色の矢印)それぞれがミラー1と2で山下 堪太(やました かんた)令和3年度 大学院理工学教育部物理学専攻修士課程修了出身地:富山県趣 味:オカルト、登山反射し、戻ってきた光は光検出器に入っていく。緑色の部分とオレンジ色の部分(腕)が同じ長さならば、二つの光は打ち消し合うはずだ。重力波によって長さに違いが生じると、その差は「干渉縞」として観測される。KAGRAはそれぞれの「腕」の長さが3kmもある巨大な望遠鏡である。こんな研究をしています! 精密な測定には、環境から生じる余分な信号(ノイズ)を軽減させることが欠かせない。ノイズは、地面の振動や温度変化など多種多様だが、レーザーの強さのブレによるノイズについて研究しているのが、山下さんの所属するグループだ。 レーザー光はKAGRA全体を通っているのでKAGRAの機器に改良が加わるたび、調整が必要になる。現地で見つかった問題点を大学に持ち帰り、実験などでその原因を探る。問題点を解決できたら、再び現地の装置に反映する。大変なこと&楽しいこと KAGRAでの研究は、坑内で作業できる時間が限られているうえ、多くの研究者が共同で作業している。そのため大学内で行う研究よりもしっかり実験計画を立てる必要がある。さまざまな装置を置くスペースに頭を悩ませることもたびたびだ。 山下さんは実験で出た結果や理論を基に、自分なりにまとめた考えを指導教員の森脇喜紀先生と共有している。工夫して取ったデータが、予想される結論と一致したときや、実験が思い通りにできたとわかった時の喜びが研究のモチベーションを支えているという。この研究紹介記事は以下の授業で作成したものです。「科学コミュニケーションII」主講師:元村有希子(毎日新聞論説委員)担当教員:川部達哉(数学科)、島田 亙(自然環境科学科)図1:マイケルソン干渉計の仕組み図2:KAGRAの心臓部であるPSLルーム(右側の円筒部から奥にレーザーが放出される)図3:KAGRAで作業する様子学生による学生のための 研究者レポート 理学部の若き研究者たちの最新情報を公開04研究者レポート

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