耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座は、昭和54年4月1日本学開講と同時に開設され、初代水越鉄理教授(昭和54年4月~平成5年3月)、2代目渡辺行雄教授(平成5年11月~平成24年3月)、3代目將積日出夫教授(平成24年9月~令和5年3月)と継承され、令和5年9月より4代目森田由香が着任した。將積日出夫教授は、退任とともに富山大学医学部医療機器イノベーション共同研究講座客員教授に着任され、医療機器開発研究を継続している。令和6年7月現在、スタッフは准教授:藤坂実千郎、講師:高倉大匡、助教:阿部秀晴、舘野宏彦、中里瑛、大学院生(博士課程):大井祐太郎で構成されている。研究活動:研究分野は、初代教授である水越鉄理先生から続くメニエール病を中心としためまい平衡障害に関連した臨床的研究が中心であった。主な研究テーマは、1)中耳加圧治療による難治性内リンパ水腫疾患の治療、2)前庭誘発筋電位を用いた内リンパ水腫推定検査法の臨床応用、3)近赤外線分光法による大脳性平衡機能検査法の開発、4)めまい疾患の疫学的研究、5)内耳造影MRIによる内リンパ水腫の画像解析、などがある。渡辺行雄教授、將積日出夫教授は、日本めまい平衡医学会理事長を歴任され、我が国のめまい平衡神経科学の発展に大いに貢献された。特に、平成24年度経済産業省課題解決型医療器機等開発事業に研究テーマ「難治性メニエール病のめまい発作を無侵襲的に軽減する医療器機の開発」が採択され、助成金により新型中耳加圧治療器の開発が行われた。日本医療研究開発機構(AMED)めまい研究班によって臨床治験を経て、中耳加圧療法機器「EFET01」が承認され、2017年に上市され、2018年に保険収載された。難治性内リンパ水腫疾患に対する富山大学発の新しい治療法として多くの患者さんに利用されている。また、学会活動としては、2019年10月に第78回日本めまい平衡医学会(会長:將積日出夫教授、富山国際会議場)を開催し、全国から多くのご参加をいただいた。2020年2月頃より新型コロナウイルス感染症が拡大し、さまざまな研究活動が制限されることになり、多くの学会が中止、もしくはWeb開催となった。そのような中、2021年1月には第36回耳鼻咽喉科情報処理研究会をWeb開催した。2023年9月以降、これまでの一貫しためまい研究を土壌に、難聴・中耳側頭骨疾患などの診療を発展させるとともに、難治性めまい疾患のみならずすべての難治性耳疾患に取り組みを開始した。感覚器診療を得意とする診療科の特徴を生かし、前庭障害と認知機能低下の関連、聴覚リハビリテーションが認知機能へ与える影響、前庭障害と脳高次機能の関係、難治性難聴を呈する免疫疾患の臨床的特徴などをテーマに研究をすすめている。また耳科手術数の増加により、耳科手術治療に関する臨床研究も展開していく予定である。教育活動:耳鼻咽喉科頭頸部外科学は、脳、眼球、歯を除く、鎖骨上すべての構造物を対象とする。年齢は新生児から高齢者まで幅広く、生きるために必要な呼吸・嚥下・睡眠の他、人らしく生きるために必要な多くの感覚器を取り扱う。そして頭頸部領域に発生するすべての悪性腫瘍について、機能の保持を考慮した治療を求められる。それぞれの臓器で特徴が異なるため、幅広い知識と多彩な手技を習得する必要がある。医学科3年次生に対して系統講義で基礎知識を習得し、この他に感染症系講義、免疫系講義で耳鼻咽喉科領域の疾患の理解を深めてもらっている。研究室配属の学生には、3Dプリンターを用いた側頭骨モデルを作製し、解剖の理解を深める方法を探求している。さらに、4~6年次生に対しBSLで耳鼻咽喉科全般の診察方法、個々の疾患に対する診断、治療、手術手技について、担当医と一対一で学ぶシステムで行っている。大学院博士課程について、2016年から現在まで、NguyenTrongNghia医師、DoTramAnh医師をベトナム軍医大学より博士課程大学院生として迎え、2名とも博士号を取得して帰国された。2024年4月から大井祐太郎が入学し、2025年から分子薬理学教室で研究を行う予定である。また、10月からは中西亮人が入学し、国内留学として岐阜大学生命原理学講座 生体物理・生理学分野(任書晃教授)で聴覚の基礎研究を予定している。国内留学としては、2019年から宮城県立がんセンターへの定期研修が開始され、計4名が研修を修了し、頭頸部診療に貢献している。(森田由香)87第2章 医学部・附属病院 耳鼻咽喉科頭頸部外科学講座
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