医学部50周年
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 健康寿命延伸に寄与する   歯科口腔外科を目指して歯科口腔外科学講座は、初代教授は戸塚盛男であり、その後、古田勲、野口誠と続き、令和6年6月1日より山田慎一が教授に就任し講座を主宰している。私たちの講座には「良い研究、良い教育は良い臨床から」という哲学が医局の根底にあり、臨床に重点を置きながら教育・研究を展開してきた。特に、教育では北陸には歯学部がないことから、医学部医学科生、看護学科生、医師、パラメディカルが歯科や口腔外科の専門的な講義を受ける機会は少なく、口腔外科疾患の診断および治療や口腔機能・口腔細菌と全身との関連を理解できるように講義を行ってきた。医学科3年次生を対象とした系統講義「口腔系」では12コマある講義で、歯科、口腔外科に関する重要事項を網羅するように講義を組んで、数少ない講義で効率よく学べるように工夫を行ってきた。また、5年次生、6年次生の臨床実習では、その実際を体験させ、理解が深まるようにしてきた。特に、近年では、「医科歯科連携」、「多職種連携」のキーワードのもと、密接な連携を行うことが重要とされており、科学的根拠や身近な臨床例を提示することで理解が進むようにしてきた。また、「多職種連携」では看護学科でも講義を担当することにより、口腔細菌の為害性、口腔機能の低下が全身に及ぼす影響などを教授してきた。加えて、研修医を対象としたイブニングセミナーでも「医科歯科連携」をテーマとした内容で講義を行い、口腔や歯科との連携の重要性を理解することに重点を置いてきた。近年の分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬、生物製剤の導入などの治療法の進歩により、今までにみられなかった口腔内有害事象の発症頻度も増加しており、歯科医師以外の医療従事者にこのような背景を理解してもらい、歯科口腔外科と密接な連携を行う必要性を認識することは健康余命の延伸にも必須であると考える。また、研修歯科医師の教育も重要なことであり、近年、歯科医療は従来の歯の形態回復に重点を置いた「治療管理型」の治療スタイルから口腔機能の維持・回復に主眼を置いた「治療・管理・連携型」に変化してきており、また、地域包括ケアシステムへの参画も求められていることから、保健所実習を取り入れるなどの改革を行い、「医科歯科連携」、「病診連携」、「多職種連携」が行える人材の育成にも力を注いできた。今後も地域の歯科医療を支える人材の育成に真摯に取り組んでいきたいと考える。研究面でも、講座開設以来、着実に歩を進めてきており、学位取得者の数も順調に増加してきた。研究内容としては口腔粘膜疾患の解明を目的とした分子生物学的研究と口腔機能に着目した生理学的研究を軸に行なってきた。特に口腔癌に関する研究では、口腔癌の増殖に関する分子生物学的研究、口腔癌宿主免疫応答に関する研究などを行なってきた。また、学内外の研究室とも分野横断的に研究を展開してきた。本学再生医学講座との羊膜間葉系細胞・乾燥羊膜を用いた顎口腔領域における再生医学の基礎的・臨床的研究、本学病態・病理講座との線維芽細胞の遊走と口腔疾患の制御に関する研究、本学システム情動科学講座との口腔機能と脳科学研究、東京医科歯科大学分子免疫学教室との免疫チェックポイント分子と口腔粘膜疾患との関連に関する研究などを行ってきた。また、インドネシア、イランなどからの留学生も積極的に受け入れてきた。多機関共同研究を口腔癌や医科歯科連携などの領域で積極的に展開しており、希少癌である口腔癌やエビデンスの蓄積が少ない医科歯科連携について症例を集積した研究を行いエビデンスの確立を目指している。また、高齢口腔癌患者における高齢者機能評価や、臓器温存を目指した動注化学療法に関する前向き観察研究を行い、低侵襲で健康余命の延伸に繋がる治療法の確立をしたいと考えている。(山田慎一)90歯科口腔外科学講座

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