医学部50周年
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医療統計学講座は2024年4月に創設され、米本が教授に着任いたしました。当講座の前身は、名称は異なりますが、バイオ統計学・臨床疫学(折笠秀樹教授)かと思います。1994年に統計・情報科学講座として発足し、2021年に退官されるまでご活躍されました。医療統計学は英語では“Biostatistics”になりますが、この英語の日本語訳は一定せず、各大学、研究機関での同内容の講座で名称が異なっています。(生物統計学、生物統計情報学、医学統計学、医薬統計学、臨床統計学、バイオ統計学等)ただ名称は異なっていますが、医療及び医学の諸問題に関して、統計学的なアプローチでの研究を行っていることは共通しているかと思います。本領域の主な研究課題としては、臨床試験や疫学研究での研究デザインや統計解析に関わる課題への対応、新しい方法論の開発があります。より効率的に研究方法を提案、実現し、なおかつ厳密な統計学的な評価を通じて、医学・医療の発展、地域や患者さん貢献することが求められています。講座としては、4年生の「医学統計」の担当しております。検定や信頼区間といった医学研究で用いられる基礎的な統計学の方法から、ソフトウエアによる模擬データの解析実習までひととおりの内容を講義しています。近年ではコンピュータやソフトウエアの進歩により、手計算で統計の計算を行うことはまれなため、それぞれの手法の考え方、および計算結果の解釈を中心に講義を行っています。特に検定のP値については、近年でもその解釈の課題についてNature誌等でもいまだ論議が行われており(LeekJTandPengRD 2015)、講義でも取り上げています。当分野の近年のトピックの1つに因果推論Causalinferenceがあります。観察研究から治療効果に関する統計学的な推論を行う場合、バイアス、特に交絡confounderが問題になります。ランダム化比較試験でも、行った割付が守られなかったり、治療効果が時間によって変化したり、対象者の追跡に偏りや欠測があったりすると、結果にバイアスが生じることがあります。このような場合での、因果関係の推論のため、バイアスを調整するさまざまな解析方法が開発されています。因果グラフの導入(GreenlandS,etal1999)、周辺構造モデルの開発(RobinsJM,etal2000)など、90年代後半から2000年初頭にかけて、この分野では大きな進歩がありました。現在でも様々な応用上の課題が研究されています。さらに近年では、ランダム化比較試験の考え方に基づいた観察研究の解析方法のフレームワークである標的試験の模倣TargetTrialEmulationが提案され(HernánMA,etal,2016,HernánMA,etal,2022)、急速に応用が行われつつあります。また今まで概念上での議論しか行われていなかった因果推論における一般化可能性Generalizabilityや外装可能性Transportabilityの研究も進んでいます。当方は観察研究における抗がん剤の治療効果の比較に関する研究において、因果推論に基づく解析方法を応用した経験があります(YonemotoN,etal2004)。因果推論の領域は、ビックデータ、リアルワールドデータへの関心の高まりから、多くの発展可能性を秘めていると考えています。今後、当講座において、さらに研究を進め、発展させることができればと思います。(引用文献)LeekJTandPengRD.Statistics:Pvaluesarejustthetipoftheiceberg.Nature.2015;520(7549):612.GreenlandS,PearlJ,RobinsJM.Causaldiagramsforepidemiologicresearch.Epidemiology.1999;10:37-48.RobinsJM,HernánMA,BrumbackB.Marginalstructuralmodelsandcausalinferenceinepidemiology.Epidemiology.2000;11:550-60.HernánMA,RobinsJM.UsingBigDatatoEmulateaTargetTrialWhenaRandomizedTrialIsNotAvailable.AmJEpidemiol.2016;183:758-64.HernánMA,WangW,LeafDE.TargetTrialEmulation:AFrameworkforCausalInferenceFromObservationalData.JAMA.202227;328:2446-24.YonemotoN,FuruseJ,OkusakaT,etal.Amulti-centerretrospectiveanalysisofsurvivalbenefitsofchemotherapyforunresectablebiliarytractcancer.JpnJClinOncol.2007;37:843-51.(米本直裕)95第2章 医学部・附属病院 医療統計学講座

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