成人看護学Ⅰ講座では、慢性の病いをもつ生活者とその家族を支援するための実践能力の育成に焦点を当てた教育を行ってきました。慢性的な健康課題に直面している生活者およびその家族の生活の質(QOL)を維持し、向上させることは、現代医療の重要な目標の一つです。本講座では、慢性の病いを持つ生活者を全人的に理解し、その人らしさを尊重した個別性のある看護の提供を目指しています。具体的には、慢性疾患の医学的側面だけでなく、心理社会的な側面、生活者が長年培ってきた価値観も包括的に評価し、それに基づいた適切な看護援助を行う能力を学生が育むことが出来るような教育を提供しています。例えば、慢性疾患の病態や治療の特徴を理解することから始め、その知識を生かして生活者が日常生活において直面するさまざまな健康問題に対応できるような教育を提供しています。さらに、慢性の病いが個人の生活に与える影響を具体的に把握し、セルフケアの促進と自己管理能力の向上を支援する看護技術についても深く掘り下げます。また、多職種連携の重要性にも焦点を当てています。慢性疾患を持つ生活者が社会的リソースを最大限に活用し、地域社会で自立した生活を送れるよう支援するためには、医師、看護師、薬剤師、栄養士、社会福祉士など、さまざまな専門職が協力し合うことが不可欠です。このため、学生には多職種との協働による総合的なケアの実践方法を学び、地域医療や在宅医療での看護の役割を深く理解できるような教育プログラムを構築しています。看護教育はただ技術を教えるだけでなく、慢性的な病いを持つ生活者が地域社会で尊厳を持って生活できるよう、看護師がどのように支援すべきかを学生に問いかけるものです。私たちは、生活者一人ひとりの価値観を尊重し、その人らしい生活が送れるよう努めることが、真のQOLの向上を目指す看護師の育成には重要だと考えています。このような教育体制を整えることで、将来、看護学生が慢性の病いを持つ患者とその家族が直面する多様な課題に対応できると期待しています。(山田理絵)98 成人看護学1講座
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