医学部50周年
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概要エコチル調査のこれまでと今後エコチル調査感謝フェスタ2020近年、子どもに対する環境リスクが増大しているのではないかとの懸念が高まり、特に環境化学物質に対する小児の脆弱性について大きな関心が払われている。子どもの成長や発達は様々な環境要因の影響を受け、大人よりも環境要因に対する感受性が高い。そのため子どもの健全な発育を守るためには、子どもの健康に対して環境要因が与える影響を明らかにし、その成果を環境政策に反映させることが必要である。エコチルとは「エコロジー」と「チルドレン」を組み合わせた造語であり、エコチル調査の正式名称は「子どもの健康と環境に関する全国調査」である。エコチル調査は、妊娠中や出生後早い時期の環境要因が、子どもの成長や発達に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、2010年度にスタートした。3年間で全国から10万人の妊婦さんを登録し、生まれた子どもを定期的に追跡する大規模かつ長期にわたる出生コホート調査である。エコチル調査は環境省が企画・立案し、コアセンター(国立環境研究所)が中心となり調査をとりまとめ、メディカルサポートセンター(国立成育医療研究センター)が医療面のサポートを行っている。ユニットセンターは、公募で選ばれた北海道から九州・沖縄までの全国15地域の大学等により組織されている。富山大学エコチル調査富山ユニットセンターは北陸地域における拠点としての役割を果たしている。エコチル調査は当初、子どもが13歳になるまでの計画で進められたが、2023年度環境省「健康と環境に関する疫学調査検討会」より、子どもが40歳程度まで継続することが望ましいと提言され、研究期間は2054年頃までに変更された。理由としてこれまでの調査から多くの研究成果が報告され、妊婦や子どもの健康に関する各種ガイドラインなどの策定にも活用され、社会貢献度が高い事業として認められたことがあげられる。2024年3月末まで、92%という高いフォローアップ率を維持していることから、調査の継続により、化学物質のばく露や生活習慣が思春期以降に発症する病気にどう影響するのか、子どもたちの次世代の子ども(孫世代)の健康への影響なども明らかになることが期待されている。エコチル調査の成果をより信頼性の高いものにするためには、参加者数を高い水準で維持することが重要である。富山ユニットセンターは、これまで約92%という高い追跡率(現参加者率)を維持している。また各年齢および学年で実施している質問票において、75%以上という高い回収率を維持している。参加者の協力継続のため、成果の社会還元等を通してエコチル調査の意義を理解してもらえるように努めている。エコチル調査のデータを用いて、2024年7月現在、全国から約450編の英文原著論文が出版されている。エコチル調査から明らかになった知見は、環境省エコチル調査ホームページで公表されている。エコチル調査はわが国において、これまでみられなかった規模と予算で行う大規模な国家プロジェクトである。エコチル調査の目的は、環境要因が子どもの健康に与える影響を明らかにすることである。特に化学物質の曝露や生活環境が、胎児期から小児期、成人期にわたる健康にどのような影響を与えるのかについて明らかにし、化学物質等の適切なリスク管理体制の構築につなげることである。化学物質規制の審査基準への反映、環境基準(水質・土壌)への反映など、未来に向けた環境対策・体制の構築につなげることをめざしている。エコチル調査の成果を環境政策に反映させることにより、真に安心・安全な子育て環境を実現し、ひいては少子化対策にも結びつけることが期待されている。(稲寺秀邦)107第2章 医学部・附属病院〈センター〉 エコチル調査富山ユニットセンター

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