医学部50周年
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富山大学炎症性腸疾患内科は、国公立大学初の炎症性腸疾患(InflammatoryBowelDisease:IBD)に特化した講座として開設され、2023年4月に渡辺憲治が赴任致しました。21世紀に入り、抗TNF-α抗体製剤のinfliximabが登場して以降、特に2020年前後からは潰瘍性大腸炎やクローン病に対する新規治療薬が毎年のように新規承認され、消化器領域でも最も伸び代がある分野の一つと認知されるようになりました。内科的治療のみならず、内視鏡による検査や治療などの画像診断、CRPより腸管炎症に対して感度が高いバイオマーカーの開発など従来より精度の高い診療が可能となり、内視鏡的寛解などより高度な治療目標の達成と維持により、長期予後も大きく改善しました。ヒューマンサイエンス財団の検討でもIBDは治療による患者満足度が高い疾患となっています。こうして従来の食事制限等を伴う「守り」の診療から長期予後改善を意図した「攻め」の診療へと発展して参りました。「難病」という用語に患者さんも医師も畏怖を抱く必要は無くなってきたのです。しかし、IBDの診療はガイドライン等を見ていればできるようになるといったものではなく、非常に専門性が高い領域です。また、新規薬剤を多用すれば専門家と言われる訳ではなく、むしろ既存治療と言われる従来から存在する治療の方が腕の差が出ると言われていますが、本邦には指定難病に対する医療費助成が存在するため、海外に比べて高額な分子標的薬による治療が比較的施行し易い状況にあります。このため経験の乏しい医師でも早目に分子標的薬を開始することができ、それで有効であれば自身の治療方針は適切であると思ってしまう可能性があります。腫瘍早期発見のためのサーベイランス内視鏡検査やクローン病手術回避を意図した内視鏡的バルーン拡張術なども非常に質の差が出易い診療内容と言えます。全国的な視点から見て、北信越地域は全国的なIBDの診療、教育、研究の拠点となる施設が存在していませんでした。10年位前からIBDの世界でも日本全体或いはエリアで多施設共同研究などを行い、欧米に新たな知見を発信することが当たり前になってきておりますが、北陸を含む中日本には、そのような前例が無く、この地域の診療・研究レベルの向上や次世代の育成の障害になってると思っております。本稿を記載している2024年7月は講座開設から1年余りが経過した時点ですが、この1年で国内のIBD最先端施設が行っている診療は全て同程度以上で行えるように診療体制を整備して参りました。当科でIBDを専門に診療したいという若手医師も複数現れ、学生も研究室配属や研究医養成プログラムで回ってくれるようになりました。従来、紹介実績がなかったような施設からも紹介患者さんが来られるようになり、継続的に患者数も増え続けています。今後も増加し続ける患者数に対応できる診療体制を構築して参ります。IBDには、診断や治療を含め、解明、検討すべき課題が沢山残されています。本邦が得意とする内視鏡を中心とした高精度な画像診断と臨床医の強みを活かした生検など臨床検体を活かしたtranslationalresearchなどを行い、大学院生や海外留学生の輩出を行って参りたいと思います。また、今後、益々、長期経過など高齢患者さんが増えると言われています。分子標的薬など強力な抗炎症治療で進歩してきたIBDの診療ですが、高齢患者さんは青年層の患者さんより安全性や身体機能の保持も配慮する必要があります。研究すべき課題は日常の臨床に溢れています。真摯に患者さんと向き合うなかで沸き出でてくるresearchquestionを自身の研究で検討し、その成果を患者さんに還元していく、そうした息吹溢れる医局とし、次代を担う人材を育成して参りたいと思います。(渡邊憲治)113第2章 医学部・附属病院 炎症性腸疾患内科

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