医学部50周年
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講座の沿革と診療体制診療実績と地域医療への貢献臨床研究と基礎研究昭和51年に開設された第一外科講座から分かれる形で、令和4年7月1日付で土谷智史が特命教授を拝命し、富山大学に呼吸器外科学講座が新設された。診療体制は4名の呼吸器外科専門医で始まった。私以外の3名は全て富山大学第一外科出身の新進気鋭の呼吸器外科医であり、まさに“少数精鋭”のグループで臨床にあたった。尾嶋紀洋助教、嶋田喜文助教、北村直也診療助手である。月水金の週3回手術を行い、通常の肺がん手術のみならず、気管支形成術や胸壁合併切除などの進行癌から気胸や膿胸の緊急手術まで広く対応してきた。令和5年4月より富山大学第一外科出身の田邊慶太郎医員が、同年7月より長崎大学腫瘍外科よりの出向で下山孝一郎講師が加わった。そして令和6年4月より2名の入局があった。北出成と横山稜である。関連病院への出入りはあるが、同年7月まで最大7名で診療を続けている。診療実績では、令和4年の呼吸器外科手術件数はCOVID-19の蔓延により全体で172例と少なかったが、令和5年に206例と回復し、肺がん手術93例、転移性肺腫瘍32例、良性腫瘍5例、縦隔腫瘍14例、胸壁腫瘍2例、ブラ切除・肺瘻切除18例、感染性肺疾患(膿胸含む)26例であった。低侵襲手術では、単孔式手術はやや下火になったが、ロボット支援下手術件数は増え、令和5年には年間38例と新潟を含む北陸4県で最多となった。肺がんの術後補助療法では、呼吸器外科でもCDDP+VNRの入院治療、分子標的治療薬(タグリッソ)の外来治療を行う環境を整えた。地域医療への貢献としては、富山県立中央病院、黒部市民病院へ毎週手術応援を行い、富山市民病院とも積極的に連携しながら診療を行っている。また呼吸器外科の担当外来を、上越総合病院、富山労災病院、高岡市民病院、南砺市民病院に開設し、県西部から東部まで網羅した。さらに令和5年のブラックジャックセミナーに講師として参加し、未来の医療を担う子供たちへ啓蒙活動を行った。また、北陸地方における呼吸器・胸郭疾患治療の基幹施設を目指す“呼吸器・胸郭センター”を、令和6年1月に設置した。成果として高難度手術、漏斗胸の手術も増えている。センターの優位性を生かしながら、サルベージ(救済)手術やオリゴメタに対する手術など、大学病院ならではの新しい取り組みをさらに加速させるべく、努力を続けている。大学病院は研究機関でもあり、最先端の研究を行い、新しいエビデンスを生み出す努力を行わなければならない。臨床研究では、西日本がん研究グループ(WJOG)に所属し、日本がん研究グループ(JCOG)にオブザーバー参加している。個別の臨床研究では、嶋田助教が尾嶋助教とともに肺癌の胸膜浸潤を判定するAI研究を続け、博士論文としてSurgeryTodayに受理された。また北村診療助手も特定臨床研究として、ステイプラーでの血管切離断端を検証している。基礎研究では、順天堂大学と共同でラット肺移植モデルでの免疫寛容誘導を行っている。また肺の臓器再生研究では、川崎医科大学のヒト肺オルガノイド、日本大学の羊膜上皮由来肺細胞、京都大学のiPS由来肺胞上皮などを播種する、多くの協同研究を開始した。それに伴って研究者も増え、令和5年4月よりインドからShadilWani研究員が、10月より北村直也大学院生が、令和6年4月より小林巧明大学院生が加わった。さらに同年10月よりベトナムからNguyenDung、パキスタンからHasnainMu-hammadの2名の大学院生を迎え、廣田早苗研究補助、研究室配属の医学生2名を含めると計8名が所属することになる。このように、2年前に新設された呼吸器外科学講座は、今まさに草創期であり、基礎を固めている段階である。数年内に臨床、基礎共に輝かしい成果を挙げるべく、邁進しているところである。(土谷智史)121第2章 医学部・附属病院 呼吸器外科

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