富山大学附属病院産婦人科は1979年10月より泉陸一初代診療科長のもと診療が開始され、1998年4月より齋藤滋先生指導のもと、当大学産婦人科は大学病院のみならず県内の周産期医療の改善に大きく貢献してきた。これは、2001年より当院に開設された周産母子センターにおいて、産科医、小児科医、小児循環外科医、小児外科医の専門スタッフならびにNICU専任看護師など多職種連携によってなされた功績であり、これまで尽力された関係者に感謝を申し上げたい。そして2020年2月より第三代診療科科長として中島彰俊がその任にあたっている。就任当初はコロナ感染が広がる中であったが、県内の産婦人科医療機関と連携し、県内妊婦での大きな混乱はなく鎮静まで至った。専門である婦人科癌診療に関しては、2015年以前は年間婦人科癌治療者数が50名前後であったものが、コロナ禍の2023年度には治療者数が100名を超え、県内から多くの患者が集まる状況にある。これは婦人科腫瘍指導医2名・修練医が4名在籍していると共に、婦人科内視鏡技術認定医4名、ロボット手術医も2名配置するという体制の充実が寄与していることに他ならない。また、芍薬甘草湯による抗がん剤誘導性筋肉痛・関節痛の緩和を目的とした医師主導治験を附属病院第一号として、他の診療科の協力のもと実施した。今後は、それらの治験結果、臨床研究および基礎研究から実臨床に価値ある治療法のフィードバックを促進していく。加えて、島臨床准教授、竹村客員助教、安田助教、山﨑病院助教の体制を軸に専門医の充実を図っていく。臨床上では、婦人科と深く連携する放射線科(専門的読影および強度変調放射線療法等の先進的放射線治療、毎週のカンファレンス)、病理診断学講座(毎月のカンファレンス)、第二外科および泌尿器科(根治的手術の合併切除等)との共働により、当科の進行卵巣癌症例の5年生存率は全国平均を大きく上回っている。周産期領域では米田哲診療教授を中心に、米田徳子助教、津田助教、伊東助教、生水助教が羊水を用いた早産の予知、予防に取り組み、早産児の予後改善に寄与している。これは全国的に見ても先進的な取り組みであり、臨床検査医学の仁井見教授との共同研究によってなし得た富山大学附属病院の総合力を表す結果である。また、NICUに収容された児の発達障害リスク因子を解析した結果、母の妊娠高血圧症候群(特に腎機能障害)がリスクであることが分かった。今後は、当科がこれまで培ってきた基礎研究を発展させ、臨床検体を用いた妊娠高血圧症候群の発症予知方法および新規治療法の開発に取り組み、新生児の発達障害の改善を目指している。生殖内分泌は県内で唯一の研修指定病院となっている。現在、伊東助教は不育症患者を対象とした次世代シーケンサーを用いた胎児組織染色体検査を先進医療Aとして実施すると共に、津田助教はプレコンセプションケア(妊娠前に妊娠準備をする)外来を北陸で最初に開設した。これまで自己免疫疾患で妊娠を断念していた方などへの治療指導を行うほか、定期的に膠原病内科・皮膚科等他科医師との連携をとることで、妊娠中の合併症軽減に取り組んでいる。また、早発閉経(POI)は約1%の女性に起こる疾患であるが、現在有効な治療方法はない。晩婚化の進む中、妊娠を希望する頃に閉経し妊娠できない女性が増加する可能性がある。この疾患で苦しむ人に少しでも妊娠のチャンスを得てほしいという思いから、臨床研究として、閉経した卵巣を摘出・体外刺激した後に、体内に戻し、排卵誘発剤で卵胞発育を復活させるという先進的な医療にも取り組んでいる(世界で6番目に開始)。まだまだ不安定な技術であり、コロナ禍もあり一時中断していたが、このような方法によりこれまで治療できなかった患者さんを一人でも救っていきたい。産婦人科4本目の柱である女性医学分野は島臨床准教授が専門医として支えると共に、小児婦人科外来にも対応している。加えて、当科が中心となり小児AYA世代妊孕性センターの相談を担当すると共に、産婦人科漢方外来、思春期外来、更年期外来など多岐にわたる専門外来を患者さんに提供している。(中島彰俊)125第2章 医学部・附属病院 産科婦人科
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