医学部50周年
144/268

歯科口腔外科は院内標榜科名は顎口腔外科・特殊歯科としている。これは口腔だけでなく顎顔面の機能回復を重視している私たちの診療領域、診療内容をよく表した標榜科名である。初代診療科長は戸塚盛男であり、その後、古田勲、野口誠と続き、令和6年6月1日より山田慎一が診療科長として運営を行っている。現在、今上修一副診療科長・外来医長、池田篤司病棟医長、櫻井航太郎教育医長の体制で診療にあたっている。野口誠教授の時代より「良い研究、良い教育は良い臨床から」という哲学が医局の根底にあり、臨床の充実に重点が置かれてきた。口腔は解剖学的には非常に狭い領域であるが、口腔がもつ機能は多彩であり、人間の生活には必要不可欠なものである。当科では、従来より口腔癌、顎変形症、口唇口蓋裂を中心に口腔外科診療を行ってきており、口腔外科疾患のほぼ全てを診療範囲としてきた。当科開設以来、外来新患数は右肩上がりに増加し、年間3,000例を超えてきている。近年、口腔癌患者は増加傾向にあり、超高齢社会であることも相まって高齢口腔癌患者の診療の機会が増えており、その治療に難渋することも多い。口腔癌治療においては生存率の向上とともに、機能の温存・回復にも重点を置いて科学的根拠に基づいた診療を行ってきた。特に遊離再建については、導入当初は整形外科、その後は新規に開設された形成外科の御協力により拡大切除と機能的再建が可能となった。また、現在では歯科インプラントを用いた広範囲顎骨支持型装置を用いた咬合再建も保険収載されており、咬合を含めた機能再建も積極的に行ってきた。また、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、形成外科、放射線治療科、臨床腫瘍部との頭頸部キャンサーボードにて症例を供覧し情報を共有することで、他科との協働によるより高い医療安全レベルでの集学的治療を行ってきた。また、動注化学療法を用いた機能温存療法の臨床研究も展開し、高齢者機能評価を用いた研究とともに高齢口腔癌患者の健康余命の延伸を目指した研究も展開している。口唇口蓋裂治療については先代の野口誠教授の時代に導入され、着実に症例数を増やし、北陸でも有数の症例数を担当するまでになった。また、一貫した治療が必要であり、顎変形症も含めて地域の矯正歯科と密接に連携し、高い精度での治療を行ってきた。近年、「医科歯科連携」、「多職種連携」といったキーワードのもと、医科診療の支持療法的な側面を歯科医療が有してきている現状がある。以前より口腔ケアが老人における誤嚥性肺炎の減少に寄与することが知られていたが、2012年に「周術期等口腔機能管理」が保険収載され、従来の「口腔ケア」に加えて、歯周病や根尖性歯周炎などの慢性感染巣の除去、義歯調整などの補綴処置を行い、口腔機能の維持・改善といった「口腔機能管理」を行うことが広く行われるようになってきた。この領域にはなかなか科学的根拠はない状態が続いていたが、術後肺炎や手術部位感染の減少、術後在院日数の短縮、医療費の減少が報告されてきており適応の拡大がなされており、当院でも関係各科よりの御紹介を受けて、外来患者数に占める割合が増加してきている。また、摂食嚥下についても言語聴覚士の診療協力をリハビリテーション部から得て、嚥下評価、リハビリを行ってきた。超高齢社会の進行とともに、地域の歯科医師会からの有病者歯科治療の依頼も増加してきており、また、手術症例の管理についても多様性があるために、内科、麻酔科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、放射線治療科、形成外科、臨床腫瘍部、小児科等の診療科、口腔外科病棟がある北6階病棟等との緊密な連携のもとに協働し、高い医療安全レベルを維持し治療を行えてきたことは、関係各位に感謝の意を表するとともに、今後もこのような体制をより発展させ、咬合などの機能再建を目指した治療を展開していきたいと考えている。(山田慎一)130 歯科口腔外科

元のページ  ../index.html#144

このブックを見る