脳卒中(stroke,brainattack)は、脳の血管に知らぬ間に発生した病気(動脈硬化、脳動脈瘤など)が原因で、直前まで元気にしていた人が突然倒れる恐ろしい疾患である。現在も、心疾患、がん、肺炎とともに日本人の主要な死因の一つとなっている。さらに、脳卒中の後遺症によって不自由な生活を強いられている患者さんは年々増加しており、わが国における近年の食生活の変化なども影響していると考えられている。特に富山県は全国よりも早いペースで人口減少、高齢化社会が進んでいるため、今後、脳卒中の予防、治療にはこれまで以上に注力すべき時代を迎えていると考えられている。こういった事情を背景に、富山県における脳卒中診療をさらに向上させるため、2018年4月、富山大学附属病院に「包括的脳卒中センター」を開設した。当センターは、365日24時間体制で脳卒中の患者さんを受け入れて、内科治療、手術、血管内治療、リハビリテーションなど全ての手段を駆使して治療成績の向上に努めている。このセンターの開設には、2016年に病院長に就任した齋藤滋教授(現・学長)の協力によるところが大きかったことを銘記しておく。開設の1年前から院内にワーキンググループを立ち上げて、脳神経外科、神経内科、救急部、放射線部、検査部、手術部、リハビリテーション部、薬剤部、事務など、脳卒中に関わる多職種の皆さんと準備することで、組織プラスミノーゲンアクティベーター(tPA)、機械的血栓回収術、臨時手術を即座に実施するための様々な課題をクリアできた。また、これまでの脳神経外科32床、神経内科20床に加えて、脳卒中専用病床として12床増床していただくとともに看護体制も整えることができた。一方、脳卒中の患者さんは長期のリハビリテーションを要することが多いため、当院から回復期リハビリテーション病院にスムーズに患者さんを転院させて、当院でいつでも急性期の患者さんを受け入れる体制を整えることは脳卒中の診療体制を構築する上で必須である。ちょうどタイミングよく近隣に富山西総合病院・富山西リハビリテーション病院が開設され、理事長の藤井久丈先生の全面的なご理解とご協力を得ることができたおかげで、患者さんの転院がきわめてスムーズとなり、われわれは「急患を決して断らない」体制を構築できた。包括的脳卒中センターの開設以降、富山県内のみならず隣接する石川県、岐阜県、新潟県から急性期脳卒中などの搬送が急増した。それに伴って当院の手術、血管内治療の件数も大幅に増加した。図は、一例として機械的血栓回収術の経年変化である。2018年からその実施件数が急増して、全国と遜色のない治療実績となっている。2019年9月、24時間365日脳卒中患者を受け入れて脳卒中専門医が速やかに診療を開始できる施設として、日本脳卒中学会から一次脳卒中センター(PSC)に認定された。富山県では10施設がPSCに認定されが、当院はこれまでの実績から富山県唯一の「地域においてコアとなるPSC施設(PSCコア施設)」として活動するよう同学会から委嘱されている。ここ数年、リハビリテーションについても診療科の開設、技師の増員を長期的に図っている。2023年4月より、当院でも医療に特化したモバイルアプリケーション「Join」を導入した。「Join」は病院のPACS(医療用画像管理システム)と連携し、チャットで医療情報を共有することができるアプリケーションで、スタッフ間連絡の迅速化・効率化・診断の正確性向上等が得られている。無用な夜間出勤が減ることで、医師の働き方改革にも有益なツールである。(黒田 敏)151第2章 医学部・附属病院 包括的脳卒中センター
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