乳がん先端治療・乳房再建センターの歩みと展望外科治療の進歩チーム医療地域との連携今後の展望2020年1月から富山大学附属病院に形成再建外科・美容外科が開設され、乳がん治療の一つである再建術を自施設で行うことができるようになった。乳がんが疑われたときの診断、手術を中心とした初期治療、放射線照射による補助療法、再発時の化学療法や遺伝子診療、緩和ケアまでをセンター内で一貫して提供できる体制を整えるため、2020年2月に乳がん先端治療・乳房再建センターを設立。当センターは、乳がん治療と乳房再建における先端技術の導入と、患者中心のケアを追求する場として、その役割を果たしてきた。乳がんという病気は、特に女性にとっては心身ともに大きな負担を強いるものであり、その治療には高度な専門性と共感が必要である。当センターでは、患者一人ひとりのニーズに応じた最適な治療を提供することを理念に掲げ、日々努力を重ねている。乳房再建分野において、形成外科の佐武利彦教授が就任され、乳房再建術の術式が多く変わり、自家組織再建を中心にさまざまな選択肢が提供できるようになり、再建症例数は飛躍的に増加している。また、再生医療を応用した再建方法として、患者様自身から吸引した少量の脂肪から幹細胞を分離・培養し、それを脂肪と一緒に乳房欠損部に注入する再建も行っている。また、がんの性質に応じた個別化治療、創が目立たない内視鏡手術、リンパ浮腫に対するリンパ管静脈吻合などの技術革新により、患者に対してより効果的で負担の少ない治療を提供できるようになった。チーム医療の重要性も、当センターの特徴的な取り組みの一つである。乳がん治療は、外科医、腫瘍内科医、放射線科医、病理医、そして看護師やリハビリスタッフ、心理カウンセラーなど、多くの専門職が連携して行う必要がある。それぞれの専門家が持つ知識と技術を結集し、患者に最適な治療を提供するための協力体制を築いてきた。特に、患者の治療計画をチームで検討し、個々の患者に合わせた最良の治療法を提供するための多職種カンファレンスは、当センターの強みの一つである。また、当センターでは、地域社会との連携にも力を入れている。地域の医療機関との協力を強化し、患者が身近な場所で安心して治療を受けられる環境を整えることが重要である。定期的な情報交換や共同の勉強会を通じて、地域医療の質を向上させる取り組みを行っている。さらに、乳がんに関する啓発活動や患者向けのセミナーも積極的に開催し、乳がんに対する理解を深める努力を続けている。これらの活動を通じて、地域全体で乳がんと向き合い、早期発見・早期治療の重要性を広めていきたいと考えている。今後の展望として、私たちはさらに革新的な治療法の開発と導入を目指していく。特に、がんゲノム医療や免疫療法といった次世代の治療法が導入され始め、これらの分野での研究を積極的に推進していきたい。最後に、私たちの取り組みは、患者さん一人ひとりのための医療であることを忘れてはならない。医療技術が進歩し、治療の選択肢が広がる中でも、患者さん自身の声を大切にし、その人にとって最適な治療を一緒に考える姿勢を常に持ち続けることが重要である。今後も、乳がん治療と乳房再建の分野で最先端を走り続けるために、スタッフ一同、情熱を持って取り組んでいきたい。(松井恒志、藤井 努)155第2章 医学部・附属病院 乳がん先端治療・乳房再建センター
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