医学部50周年
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発足の経緯活動状況痛み治療の現状と今後の課題2013年度に始まる厚生労働省研究補助による「慢性の痛み対策事業」の研究班員として麻酔科、山崎光章前教授と整形外科、川口善治(当時准教授)が参加した。その事業の内容は、日本における慢性痛患者の現状、iPadシステムを用いた痛み患者問診システムの開発、子宮頸がんワクチン接種後の神経症状についての情報収集と解析、慢性病態と治療に関する共通認識の構築等であった。その中で附属病院内に痛みの修学的治療を目指した痛みセンター設置に向けた気分が高まった。翌年になり附属病院内で慢性痛に関心の高い医師、医療スタッフが南病棟6階のカンファレンスルームに集合し、症例検討会を始めた。2014年9月には日本の慢性治療の先端を行く愛知医科大学痛みセンターを見学するためメンバーが訪問した。その後、厚労省、富山県厚生部から富山大学附属病院での子宮頸がんワクチン接種後の神経症状の患者の情報収集と治療が求められ、同年11月に附属病院痛みセンターが設置された。センター長として、山崎光章前教授と副センター長として川口善治整形外科准教授が任命された。2022年には山崎前教授を引き継ぐ形で川口善治整形外科教授がセンター長の任を担い、2023年からは副センター長として高澤知規麻酔科教授が任命されている。痛みセンターの初診は、麻酔科ペインクリニック外来で行っている。毎週火曜日と木曜日の午前中に初診患者を受け付け、最初に麻酔科のペインクリニック担当医が診察することとし、その患者の状況により痛みセンターのメンバーが随時診療治療に関わることとした。1ヵ月に1度の整形外科の医局内でカンファレンスを行い症例検討および各科の診療アプローチの仕方の勉強会を行っている。構成メンバーは、医師として麻酔科、整形外科、精神科、総合診療科、和漢診療科、小児科、産婦人科と理学療法士、臨床心理士、看護師、コーディネーターである。これらのメンバーがいわゆる多角的に得意分野を生かしながら、全体として患者に対するmultidisciplinaryapproachを行っている。2015年3月から富山県全体の窓口として、ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に接した神経症状を呈した患者の診療を開始した。2022年4月からのヒトパピローマウイルスワクチン接種積極勧奨が再開されたことに伴い、当センターは全国で12つあるうちの1つの拠点病院として参画することとなった。慢性痛を持った患者は、日本に約2,000万人存在しており、その約3分の1が日常生活に困難をきたしているというデータがある。その年間の経済的損失も大きいことが指摘されている。一方、慢性痛はいわゆる侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛と心理的精神的な問題を含めた痛覚変調性疼痛が複雑に組み合わさっているため、薬物療法、神経ブロック、運動療法、認知行動療法なども組み合わせによる治療、すなわち集学的治療が求められる。痛み治療のセンター化はこの集学的治療を行うための1つの方法ではあるが、それぞれの専門家であるペインクリニシャン(麻酔科医)、整形外科医、精神科医、理学療法士、看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士、栄養士、薬剤師が加わったチームが必要である。しかし人的側面からこれらのメンバーが専従として構成することができず、実際には他の診療を行いながら、その合間に患者を診察している状況である。また、慢性痛患者が治療によって社会復帰が可能となった場合、経済的な効果が大きいと考えられるが、現状ではその効果に見合った医療保険からの支給がないという課題がある。今後は痛みセンターとして活動場を拡大するために痛み治療に加わるメンバーを増やし、痛み診療に対する公的補助が受けられるように、さらに病院に共通の診療スペースを確保できるように広報や活動を続けていくことが必要である。痛みセンターは地域にとって痛み患者の受け皿となり、患者を一人にしないことを目指し、地域医療施設や全国のセンターと連携を取りながら活動することが求められている。富山大学附属病院痛みセンターのメンバーは、上記のことを目標に活動を続けている。(川口善治)166 痛みセンター

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