医学部50周年
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性別不合(GenderIncongruence:以下GI)は、出生時に割り当てられた性別と性自認とが一致しない状態を指します。GIの治療は精神的治療と身体的治療によって構成され、身体的治療はさらにホルモン治療と外科治療に分類されます。北陸地方では、精神科医や婦人科医、泌尿器科医の尽力により、精神的治療やホルモン治療を行う体制はもともと充実していたのですが、外科治療を専門的に行う施設が存在しなかったため、手術を希望する当事者は他の地方や国外での手術を受けざるを得ない状況でした。そこで、北陸地方にGI外科治療を普及させて当事者を包括的に診療できる体制を構築すること、GIを含む性的マイノリティに関する適切な情報発信や啓蒙活動を行うことを2大ミッションに、2021年10月1日、当院に富山大学附属病院ジェンダーセンターが設立されました。当院にGIの外科治療を導入するにあたって、まず附属病院内の教職員、事務職員、学生の理解を深めるための勉強会の開催を行いました。そこでの意見をふまえて、入院環境の整備(病衣の色の統一化、入院病棟やトイレの調整)を行い、受け入れ体制を整えました。そして2021年11月、トランス男性(出生時に女性として割り当てられたが、性自認は男性)に対する乳房切除術を開始しました。トランス男性の場合、ホルモン治療によって声の低音化や体毛増加、陰核肥大などが起こり、パス度(自認する性別として認識され、社会に通用する度合い)が上昇します。しかし、一方で乳腺組織は萎縮しないため、乳房切除術の需要が非常に高いです。当院では、乳腺切除に加えて脂肪吸引を併用することで、より男性らしい胸壁の形成を目指しています。また、術前エコーやマンモグラフィ、切除検体の病理検査によって乳癌スクリーニングを行っています。さらに、2023年12月にはトランス男性に対する性別適合手術(SexReassignmentSurgery:以下SRS)として子宮・卵巣切除術を開始、2024年5月にはトランス女性に対するSRSとして両側精巣摘出術を開始しました。全ての手術症例において、精神科・婦人科・形成外科・泌尿器科主治医、外来・病棟・手術室ナース、事務職員が集まり、合同でケースカンファレンスを開催しました。当事者情報や手術計画を予め共有し、ストレスなく入院生活を過ごすためのに意見交換や、振り返りによる改善点の見直しを行いました。そして2024年6月に当院におけるGI当事者に対する手術症例は20例を越え、当院は北陸初の「日本GI(性別不合)学会手術に係わる認定施設」に承認されました。これに伴い、乳房切除術や性別適合手術を、保険適用で実施可能(ホルモン治療を先行している場合は不可)となり、我々が掲げていた1つ目のミッションである“北陸地方にGI外科治療を普及させて当事者を包括的に診療できる体制を構築すること“の達成へ大きく1歩前進しました。次に、2つ目のミッションである“GIを含む性的マイノリティに関する適切な情報発信や啓蒙活動を行うこと”についてです。我々は、この達成のために2022年2月に北陸GI研究会を設立しました。半年に一度、医療関係者のみならず、学校教職員や行政職、企業関係者など多職種を対象に、GIに関連した研究会を開催しています。これまでに5回開催し、のべ380名以上が参加しました。各回エキスパートの講師を招き、多職種との情報共有やネットワーク構築の場として非常に重要な役割を果たしています。当センターの活動において、これまで多くの方々にご協力いただき、この3年間で大きく発展することができました。当センターのように、外科治療のみならず北陸GI研究会のような啓蒙活動を行う機関は全国的に珍しく、これらの取り組みの継続によって、閉鎖的な社会を開放し、当事者が住みやすい社会の創生を実現できると考えています。これからもご協力をどうぞよろしくお願いいたします。(瀧 京奈、佐武利彦)173第2章 医学部・附属病院 ジェンダーセンター

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