富山大学附属病院IBD(InflammatoryBowelDisease:炎症性腸疾患)センターは、炎症性腸疾患内科が2023年4月に設置されたのを受けて、2023年5月に開設され、渡辺憲治がセンター長に就任しました。消化器内科、消化器外科、小児科、産科婦人科、病理診断科、リウマチ・膠原病内科、外来化学療法センター、栄養サポートチーム(NST)を連携診療科として、協力体制を築いて頂きました。IBD国内患者数の増加と病院経営への寄与を背景に「IBDセンター」の看板を掲げる病院は国内で増えていますが、我々が目指しているものは他施設の専門家からも認められる名実ともの「真のIBDセンター」です。その骨格は、IBDを専門とする内科医と外科医ですが、全国的に見てもIBD外科医は緩徐な減少傾向にあり、特定の施設に手術患者が紹介される傾向が顕著です。また北信越にはIBD専門外科医は不在で、待機手術患者さんは関東や関西に紹介されていました。2024年4月に日本を代表するIBD外科専門施設である兵庫医科大学での診療経験を有する皆川医師が赴任されたことは、富山県のみならず北信越地域にとって待望かつ画期的なことと言えます。IBD患者さんの病態は多様で、その多様性に対応して個々の患者さんに適した医療を提供できることが真の専門施設として必要です。当IBDセンターは開設当初より「難治例こそ富山大学IBDセンターへ」とのフレーズを掲げて、他院で診療困難な患者さんこそ我々専門家の実力を発揮する場面、との思いで診療に取り組んで参りました。潰瘍性大腸炎関連腫瘍早期発見のためのサーベイランス内視鏡、クローン病の入院や手術の責任病変として頻度が高い多発小腸狭窄に対する内視鏡的バルーン拡張術など、豊富な診療経験と高度な内視鏡技術を要する診療を実践して参りました。院内の御協力を得て、便中カルプロテクチンや血清LRG(leucine-richα2glycoprotein)の院内測定を実現して頂き、その日の処方内容に検査結果が反映できる、最先端の専門施設に必須な体制を北陸で初めて築いて頂きました。更に「真のIBDセンター」の存在意義の裏付けとなる保険適用外の抗TNF-α抗体製剤血中濃度測定やチオプリン製剤代謝産物の測定も、自らの研究費を用いて実施しており、多くの施設で対応に難渋している抗TNF-α抗体製剤の二次無効を克服しています。今後、外科は腹腔鏡手術からロボット手術へと歩みを進めて参ります。2024年7月15日には本院の市民公開講座を富山県民会館ホールで開催して頂き、1年前から交流に取り組んできたIBD患者会の方々にも御登壇頂き、患者目線の富山のIBD診療について座談会を行いました(写真)。これからも患者会や地域のIBDに関心がある医師の皆様と連携し、北陸を代表するIBD基幹施設から日本の中心的なIBD基幹施設へと歩みを進めて参ります。今後更に患者数が増加し、IBD診療が発展することを鑑みた時、後継の若手医師の育成を本院、富山県、またより広範なエリアで行っていくことは大切な命題です。まずは診療レベルでの連携と人材育成から、将来的には他のエリア同様にエリアで多施設共同研究ができるようになることを目指して参りたいと思います。単に診療内容のみならず、専門家が認める研究を行ってこそ「真のIBDセンター」とも言えます。内科と外科の専門家が揃っている当センターの強みを活かした研究や富山大学の基礎系講座と連携した研究などに取組み、大学院生や海外留学生の輩出に結実して参りたいと思います。またIBDの世界では新薬開発が活発で多数の治験が行われています。そうした治験も積極的に当院に呼び込んで参りたいと思います。(渡邊憲治)176 IBDセンター
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