1.はじめに2.研究する目的富山大学学術研究部医学系 卓越教授 井ノ口 馨経験があります。欧米の研究会、大きな学会ではなくて、例えばPIだけが50人程度集まるような小さなミーティングはリゾート地で開催されることが多いと思います。例えばこのときも、WinterConferenceonNeuralPlasticityという会議に呼ばれて行きました。カリブ海のリゾート地のアルバ、写真のようなエメラルドグリーンの海のリゾートでやっているのです。午前中に研究のディスカッションをした後、午後は割とフリーの時間があり、例えばこの写真に写っているのが私、それ以外の方はアメリカやカナダから来た記憶研究の第一人者なのですが、ここで彼らと議論しているときに閃きました。議論していた内容とは関係はないのですが、ふと頭の中にパッとアイデアがいくつか出てきました。それが後に、基盤研究SやCRESTの研究テーマにつながり、さらに6~7年たってScienceの論文として発表したという経験があります。ということでこういったゆとりは研究をする上で大事だというふうに実感しています。私がなぜ研究者になったかというバックグラウンドをお話したいと思います。高校時代に、「人間とは何か」という疑問を持ちました。そこで哲学書を読み漁り、例えばカントやショーペンハウエル、それからニーチェなどを読んでいました。記念講演会医学部には3つの使命があります。医学教育、それから医療、最後に研究があります。私がこの講演者に選ばれたということは研究について話しなさいということですので、今日は研究についてお話したいと思います。もちろん私どもの最新の研究成果をお話しますが、同時に、私たちがどのようなポリシー、或いはどのような研究哲学の背景をもって研究を進めているかということについてもお話したいと思います。これは皆さん医学研究される方たち、或いはもっと一般の研究者そのものに対しても、何らかの得るものがあるのではないかというふうに思います。勝海舟はこんなことを言っています。「人には余裕というものがなくてはとても大事はできない。」つまり、大事を成し遂げるには余裕というものが必要であると。余裕にはいろいろあります。時間であるとか精神的な余裕、経済的な余裕、或いは空間的な余裕。私の経験から、研究をやる上では時間的な余裕、それか或いは精神的な余裕というのが決定的に重要だということを実感して参りました。現代は非常に忙しい時代です。私たちも教育や研究、それから臨床の先生方はそれに加えて医療があるということで、なかなか時間的なゆとりは持てないと思います。今から10年ほど前にこんな21記念講演会医学研究は次世代への贈り物
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