てアイデンティティを保持しています。多くのエングラム細胞を共有しているのに、一体どうやってアイデンティティを保っているかというのがここでの疑問です。前者の研究成果は2017年にScience誌に発表しています。さて、この黄色いニューロンが、2kHzと7kHzの音の記憶の両方持っている、ところが、2つの記憶を区別しているのは、同じエングラム細胞上にある異なるシナプスの可塑性が担っているということを明らかにし、2018年にScience誌に発表しました(図2)。その分子的なメカニズムを明らかにしたのが、こちらの論文なのです。長期記憶は、細胞体で作られたタンパク質がシナプスに運ばれてそこで機能する、それによって長期記憶化するわけですが、ここのスパインの根元にあるゲートが、このシナプス特異性を決めるメカニズムであるということを発見し2009年にScience誌に発表しております。もう1つクエスチョンがあります。記憶というのは長期間蓄えられます。その長期間蓄えるメカニズムについては、大人でも神経新生が起きると。この神経新生が海馬から大脳皮質への記憶の転送を担って、長期記憶として定着させている。実はこれは、加齢によってニューロジェネシスは落ちるのです。だからもしかしたら、加齢に伴う記憶力のデータというのは、海馬自体は記憶力が小さいです。だからニューロジェネシスの低下によって、いつまでも記憶がとどまって新しいことを覚えられない。つまり飽和してしまう。だから早いこと大脳皮質に記憶を移すということは、そういう記憶力の低下の治療になる、というふうなことであります(図3)。それからもう1つ、記憶の研究をやっていて気がついたことがあって、例えばマウスに1つの記憶を覚えさせると、記憶エングラム細胞は学習中の時間経過に伴って、このように異なる細胞集団で活動してきます。つまり、1つの単純な記憶といっても、それぞれの記憶断片は異なる細胞集団によって蓄えられているのですが、重要なのはその後です。学習をした後、寝たときの活動をずっと調べていますと、このように、先ほど活動した細胞集団の一部、大体半分以下なのですが、これが寝ているときにリプレイしています。重要なのは、翌日思い出すときに何が起こっているかというと、睡眠中にリプレイした細胞集団が優先的に活動している。つまり、睡眠による記憶定着のメカニズムを意味します。睡眠中にリプレイをすることによって記憶を定着している。それと同時に、睡眠中に記憶の選別をしている。いろんな情報があるのだけど、そのうちおそらく重要そうなものだけを選別してリプレイし残しているのだろう、ということがわかってきました(図4)。24(図2)(図3)(図4)
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