7.未来へのプレゼントというと、レム睡眠中にでてきます。こういった知見をすべて重ね合わせると、レム睡眠やノンレム睡眠中に何をやっているかということが見えて参りました。AはBよりいい、BはCよりいいというように学習し、その記憶の断片は脳に蓄えられるんですが、それは脳内で別々の情報として独立して蓄えられます。ところがその後のノンレム睡眠中に、AはBよりいい、BはCよりいい、と言ったような記憶断片の脳内表見が同時に活動する、共活動するわけですね。全部照らし合わせているように見えます。ということは、ノンレム睡眠中に全体の隠れたルール、つまり全体の階層性が構築される。AからEまで並んでいます。引き続くレム睡眠中に何が起こったかというと、まだ一回も経験していないBとDの組み合わせではBの方が良いという脳内表現が出てきます。重要なのは体験してない、将来起こる可能性があることに対して、脳は過去のいろんな記憶の情報を睡眠中に照らし合わせて、将来起こりそうなことに対する回答を準備しているということです(図5)。過去の記憶は沢山ありますが、ランダムの組み合わせで照合しているからほとんどの組み合わせはジャンクです。その中から将来これは意味がありそうなものを、睡眠中に脳は評価している。こういったメカニズムが働いていることがわかってきました。睡眠中の脳活動がどうも高次の情報処理に重要らしい。ということは、ここでわかった原理を使って脳機能を上げることができるんじゃないかということです。そこで行った実験は同じ推論の実でほとんど同じです。ただ、学習の日数をうんと減らす、つまり不完全な学習をさせると推論できない。ところが、レム睡眠中の前脳前野の神経活動を強制的に上げてあげると、推論できるようになったわけです。これは人にも使える方法だと思っていまして、レム睡眠中の脳機能を何らかの人為的な方法でブーストしてやることによって、高次の情報処理を簡単に脳ができるようになる可能性があるということであります。脳にとって睡眠は疲労からの回復という意味がありますが、それだけではなく、1つは能動的に積極的に情報処理して将来に備えていく。2つ目は、睡眠中の大脳皮質は経験したことのない新規の情報をつくり出しているということ。ノンレム睡眠が記憶を整理して、レム睡眠がそこから推論知識を計算しているということです。さらに睡眠中の脳活動を操作することで脳機能を向上させることができる、ということが見えて参りました。さて、役に立たない科学が本当は役に立つ。科学史を紐解いてみると非常にアイロニックなのですが、例えばアインシュタインの相対性理論でも、彼は役に立つかどうかというより単に興味があって研究していたが、それが実は今やその成果がGPSに使われている。面白いのは、科学の歴史を紐解いてみると、後に人類にとって本当に大きく役に立ったというものが、実は単に自らの好奇心を満たそうというような人々によって為された例が結構あるということです。身近な例でいえば、大隅良典さんのオートファジーの発見、ノーベル賞をとられていますが、がんや神経変性疾患の医学の研究にものすごいインパクトを与えます。でも彼はこんなことを言っています。「私は基礎科学者ですから純粋に“知りたいこと”を研究してきました。」言い方を変えれば、ゆとりがある、精神的ゆとり、そういったものを使って行った基礎研究が、今は役に立つかどうかわからないけれど、次世代の人たちにもしかしたら非常に大きなインパクトのある研究成果に26(図5)
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