医学部50周年
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随  想方の用語が網羅的に採用されており、漢方の研究にとっては新時代を迎えようとしています。私が医薬大の在任中に文部科学省のCOE(CenterofExcellence)に「東洋の知に立脚した個の医療の創生」で応募し巨額の研究費を獲得できましたが、これは当時の学長であった高久晃先生が、審査領域を「学際領域」で応募することにしたことが成功の理由だったと私は考えています。ヒアリングの場に学長と共に臨んで初めて分かったことは、審査委員の皆さんが、書道家、伝統芸術家、そして工学の先端技術の開発者などであり、要素還元論とは違った尺度で私どもの研究計画を評価して下さったのです。これらの事例からも分かるように、学部、学科、研究所における「業績評価」はIFにだけ頼ってはなりません。それはグローバル・スタンダードの尺度での評価であるからです。そこで提案できることは、医学部に限らず「杉谷メディカルセンター」の業績評価にはもう一つの尺度で評価下さる、歴史学者、人文科学者、芸術家、新聞社論説委員、日本東洋医学会会長、和漢医薬学会理事長などで構成される「外部評価委員会」の設置が望まれるのです。勿論私は「科学」を否定する者ではありませんが、科学は人間存在を解き明かす一つの手段であって、それ自体は目的ではないのです。そして科学の最大の欠点は精神や心を置き去りにしていることです。その理由は精神や心のありようは、定量的に捉えることが出来ないので、科学の研究対象とは基本的になりえないからです。これでは看護学を始めとして医療を論じるわけには行きません。そこで東洋の心身一如の思考の枠組みを活用する必要が生じます。このことを深く理解し、未来の日本型医療を創造する「杉谷メディカルセンター」であって欲しいのです。この五十周年誌が発刊される頃には、拙著『漢方を交えた医療論─和漢診療学からの提言』(医学書院)が出版されると思います。八十歳、まだまだボケてはいられません。39

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