沿革研究教育当講座は1977年4月に高屋憲一教授によって開かれた解剖学2講座がその源流にある。当時の研究テーマは顕微鏡による定量元素分析法の開発と組織の超微形態学を主とするものであった。第2代教授の二階堂敏雄博士が2005年4月に着任し、講座名を再生医学講座と改めた。再生医療の材料として有望視される羊膜および胎盤由来関連細胞を用い、組織工学アプローチによって本学の再生医療研究の一翼を担ってきた。2020年10月に第3代教授として伊藤哲史が金沢医科大学より着任し、三たびその名前をシステム機能形態学講座と改めた。伊藤の専門は神経解剖学およびシステム神経科学である。新講座としての初期体制は伊藤、岡部素典助教(1996年4月~)、相古千加助教(2008年6月~)、古市恵津子技術補佐員というものであった。2021年10月より古市に代わり山本真未子が技術補佐員に、牧野佑香が講座事務員となった(牧野は2024年3月に退職)。2022年4月に高橋克匡が筑波大学より特命助教として着任、さらに2024年1月に長谷一磨がカナダ・マクマスター大学より助教として着任して、伊藤着任後3年過ぎにしてシステム機能形態学講座としての研究教育体制が確立した感がある。身体システムは形態によって制約される機能を有する、という考えを元に様々な研究を実施している。伊藤、相古、長谷、高橋は聴覚神経回路の構築原理と、それが生み出す聴覚認知のメカニズムについて、分子、解剖、生理、行動という様々なレイヤーからの技術を集結することで研究を行っている。伊藤はウイルスベクターを用いた神経回路の可視化、相古はシングルセル技術による聴覚神経回路構成細胞の網羅的同定、長谷は聴覚神経回路の特性の電気生理学による解明、高橋はコミュニケーション音声に対する認知及び情動行動、をメインテーマとしながら、互いの技術を集結することでコミュニケーション音声が認知そして行動に至るメカニズムを明らかにしようと日々努力している。2022年より学生の受け入れを始め、医学部のみならず、工学部や薬学部の学生を幅広く受け入れている。岡部は再生医学講座時代からの研究を継続し、特に富山大学病院におけるハイパードライヒト乾燥羊膜の臨床応用について様々な臨床科および企業と共同で研究・開発を進めている。解剖学2講座時代より引き続き、学部教育としては主に組織学を担当している。主たる担当科目として、医学科1年次では「ヒトの構造の基礎」にて組織学総論を、医学科2年次では「組織学実習」で組織学各論を教えている。伊藤着任時はコロナ禍の真っ只中であり、非対面方式での効率の良い教育が求められていた。この求めに応じるべく、オンラインですべての教育が可能となる仕組みを作り上げた。具体的には、講義リソースをすべてmoodleに集約したうえで、(1)講義はオンデマンド形式とし、小テストで出席を取るとともに質問を募る、(2)実習は対面で行いながらも説明動画をアップロードし、自宅でのバーチャルスライドを用いた実習を行えるようにする、(3)スケッチ添削はオンラインで行う、というものである。本方式はコロナ禍が一段落した2024年現在も継続して利用している。この教育の取り組みについて、学生からの評価も含めて2022年3月に行われた第127回日本解剖学会全国学術集会の教育シンポジウムにて報告を行った。このほか、医学科の基礎医学系科目での水平統合教育、臨床医学系臓器別科目での垂直統合教育、医学英語教育を担当している。研究に関する教育では、大学院講義実習科目や医学科の研究室配属・研究医養成プログラムの他に、薬学部と工学部で本研究室の研究内容についての講義を行っている。地域貢献として、看護専門学校での講義に加え、2023年からは公開講座で一般の方々を対象に解剖学や聴覚について講義を行っている。(伊藤哲史)57第2章 医学部・附属病院 システム機能形態学講座
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