医学部50周年
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沿革教育研究本講座は、昭和50年(1975年)に第一生理学講座として開講され、川崎匡(富山医科薬科大学名誉教授)が教授として赴任した。川崎教授の退任後、平成10年(1998年)に本学第一期生の西条寿夫(富山大学名誉教授)が教授に着任した。平成15年(2003年)の改組により、大学院システム情動科学講座と名称が変更された。西条教授の退任後、令和4年(2022年)11月に西丸広史が教授に昇任した。令和6年(2024年)8月1日現在、スタッフは西丸広史(教授)、松本惇平(助教)、瀬戸川剛(助教)、神名裕美(事務担当)の4名である。この10年間の異動では平成27年(2015年)10月に西丸が准教授として、筑波大学より赴任した。さらに、高村雄策(助教)が令和2年(2020年)3月に第一薬科大学・薬学科准教授として転出した。その後任として同年4月に瀬戸川が筑波大学より赴任した。そして、令和3年(2021年)3月に定年退職した西条が富山大学医学部・特別研究教授として令和5年(2023年)3月まで本学で研究に従事した後、同年4月より東亜大学人間科学部特任教授として転出した。平成15年(2003年)以降、本講座ではこれまでに博士課程46名、修士課程28名の学位論文作成の指導を行っている。この10年間で、29名が大学博士課程を、14名が大学院修士課程を修了し学位を取得した。講座の特色として、海外からの留学生を積極的に受け入れており、平成27年(2015年)以降、博士課程・修士課程あわせてモンゴル国から6名、ベトナム社会主義共和国から6名、中華人民共和国から3名、ブラジル連邦共和国から3名、ロシア連邦とパキスタン・イスラム共和国から各1名の留学生が在籍した。現在、大学院博士課程(生命融合科学教育部・認知情動脳科学専攻、総合医薬学研究科・生命臨床医学専攻)5名、大学院修士課程(医薬理工学環・認知情動脳科学ブログラム、総合医薬学研究科・先端医科学プログラム)5名、学部生(医学部医学科・研究医養成プログラム等)5名が講座にて研究活動を行っている。学部教育は、主として医学科二年次の生理学講義と生理学実習および薬学部の生理学講義を統合神経科学講座と分担して担当している。大学院では、主に運動、情動および高次機能のしくみの講義と神経・生体情報の測定の実習を担当している。本講座では、ヒトおよび様々な実験モデル動物を対象とした情動の研究を進め、この10年間で129編の英文原著論文を発表している。これまで特にサルを実験モデル動物として、網膜から直接入力を受ける上丘や視床枕のニューロンが、天敵であるヘビや情動的な顔など、個体の生存に重要な生物学的サリエンシーをもった視覚情報を素早く処理していることを明らかにしてきた。最近これらの領域と密接な神経結合がある扁桃体や、より高次の機能を司っている内側前頭前野においても、これらの視覚刺激に対する神経表現が他の視覚刺激と比して特別なものであることを明らかにした。これは情動、特に恐怖の進化的起源を探る上でも非常に重要な発見であるといえる。また、情動と密接に関連した高次機能の神経メカニズムについて、サル、ラットおよびマウスの海馬、頭頂連合野、前頭前野のニューロンが、場所や報酬および運動の情報をどのように表現しているかを明らかにした。現在、これらの実験モデル動物において、(1)情動行動発現の神経メカニズムおよび疼痛による行動変容の病態メカニズム、(2)報酬価値に基づく意思決定の脳内メカニズム、(3)自他の区別の神経機構などについて、その解明を目指して、これまで当講座が得意としてきた行動中の神経活動の測定のみならず、光遺伝学・化学遺伝学的アプローチを導入して研究を進めている。また人工知能を活用して、上述の実験モデル動物の社会行動について、複数個体の姿勢や運動、視線の方向などの定量的な行動解析を可能にする新たな測定解析技術の開発を進めている。(西丸広史)58 システム情動科学講座

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