医学部50周年
74/268

2009年に着任した井ノ口馨が現在まで講座を主催している。2014年以降の主なスタッフは、(准教授)野本真順;(講師)大川宜昭;(助教)鈴木章円、モハマド・シハタ、カリム・アブドウ、大野駿太郎、スンミン・アム;(特命助教)横瀬淳、佐野良威、斎藤喜人、鈴木-大久保玲子、村山絵美、趙康、ジャハンギル・アラム、カレド・ガンドール、浅井裕貴、アリ・シュークリー、モスタファ・ファイド等である。2009年以来、当講座では「記憶」メカニズムの研究を進めてきた。さらに2018年からは科研費・特別推進研究の支援を受け、潜在意識下の脳の機能と活動に関する「アイドリング脳科学」研究を進めている。2020年には世界的にもユニークなアイドリング脳科学研究センター(RCIBS)を設立し井ノ口が研究センター長を務めている。RCIBSは医学系の8講座(生化学、分子神経科学、システム情動科学、神経精神医学、行動生理学、睡眠脳ダイナミクス、解剖学・神経科学、システム機能形態学)から成っている。本講座では、分子生物学・生化学から細胞生物学・組織化学・電気生理学・invivoイメージング・光遺伝学・行動薬理学さらには数理科学・AI技術までの幅広いアプローチを取ることによって、記憶メカニズムとアイドリング脳の理解を深めようとしている。2014年以降の主な研究成果を以下に記す。私たちは脳に蓄えられているさまざまな記憶情報を関連づけていくと同時に、それぞれの記憶が混同しないメカニズムを保ちながら、知識や概念を形成していく。記憶の関連付けメカニズムの解明はヒト精神活動の理解に向けての重要な一歩となるが、そのメカニズムは明らかにされていなかった。マウスを用い、記憶の物理的実体である記憶痕跡(記憶エングラム)を自在に制御する技術を駆使して、記憶同士が各々のアイデンティティを保ちながら関連付けされる細胞・シナプスレベルのメカニズムを世界に先駆けて明らかにした(Nomoto et al, NatureCommun 2016; Yokose et al, Science 2017;Abdou et al, Science 2017; Suzuki et al, NatureCommun 2022; Nomoto et al, NatureCommun 2022)。これらの成果は、「脳が様々な情報を適切に関連付ける一方で情報処理の正確さを保証する根幹の仕組み」を明らかにした点で大きなインパクトがある。さらに、記憶の関連付けに関する包括的な総説論文を公表した(Choucryetal,NatureRevNeurosci2024)。アイドリング脳研究に関しては、睡眠中に脳が多様な情報処理を能動的に行っていること、さらにその神経細胞・回路レベルのメカニズムを明らかにし、「アイドリング脳研究」という新しい学術分野を切り拓いてきた(Ghandouretal, NatureCommun2019;Aly et al, PNAS2022; Wally et al, CommunBiol 2022; Abdou et al, NatureCommun2024)。このように、従来は心理学や精神分析学の対象であった潜在意識下の脳機能について物理科学を基とした神経科学的なアプローチが可能であることを示すとともに、アイドリング脳が従来考えられていた以上に多様で重要な機能を担っていることを明らかにしてきた。以上の研究は、講座所属員が代表者として獲得した科研費・特別推進研究、科研費・基盤研究S(2件)、JST・CREST(2件)、科研費・基盤研究B(4件)、JSTさきがけ、AMEDプライム等の助成を受けて行った。受賞歴としては、東レ科学技術賞、高峰記念第一三共賞、内藤記念科学振興賞、田村四郎科学賞、紫綬褒章等がある。教育は、医学科学生対象に医科分子生物学の講義と実習、大学院生対象に脳科学特論、脳認知学特論、生命高次適応科学特論、分子ゲノム科学の講義とRNA制御学実習を担当している。高道恵利子、大上幸子、中易真理奈が事務業務を担当し、研究・教育・講座運営をサポートした。(井ノ口馨)60 生化学講座

元のページ  ../index.html#74

このブックを見る