講座の構成員教育研究2024年7月現在、教職員6名(教授森寿、准教授吉田知之、助教石本哲也、助教井上蘭、技術専門職員和泉宏謙、研究支援員松浦恵美)、大学院博士課程3名、修士課程1名が所属している。その他、共同研究を行っている研究室の学部生、大学院生が研究に参加している。教員組織の再編により、教員の所属は学術研究部医学系となった。また、アイドリング脳科学研究センターの担当を兼務している。学部教育では、医学科2年生の医科分子生物学の講義と実習、看護学科1年の栄養生化学の講義、薬学部の講義、教養教育の講義などを担当している。大学院教育では、生命融合科学教育部認知・情動脳科学専攻を担当しているが、2022年からの大学院組織の改組により、修士課程では大学院総合医薬学研究科の先端医科学プログラムおよび医薬理工学環の博士前期課程、認知・情動脳科学プログラムを担当している。また、大学院博士課程では、総合医薬学研究科博士課程、生命臨床医学専攻および医薬理工学環博士後期課程、認知・情動脳科学プログラムを担当予定である。研究では、脳機能と病態の分子基盤を明らかにすべく、独自に遺伝子操作マウス系統を確立し、それぞれの教職員がテーマを持ち研究を進めている。森らは、NMDA型グルタミン酸受容体(NMDAR)の内在性コ・アゴニストのD-セリンに注目し、D-セリン合成酵素(セリン異性化酵素、SRR)遺伝子のノックアウトマウスを作製し、その解析を進めた。その結果、SRRがマウス脳内では前脳を中心として神経細胞に主に発現すること、記憶過程のうち長期記憶の形成に関わること、想起後の記憶の再固定過程に神経新生と共に関わること、疼痛制御に関わることなどを見出し報告した。さらに、アルツハイマー病モデルでの神経細胞死、糖尿病性網膜変性疾患モデル、薬物誘発てんかんモデルなどNMDARの関与する興奮毒性にD-セリンが関わっていることを明らかにした。これらの研究結果からSRRは神経変性疾患などの創薬標的と考えられ、SRRの立体構造情報を基にしたinsilicoスクリーニングを行い、SRRの新規阻害薬の創薬を本学の薬学部、工学部の研究室と共同で進めた。また、学内外との共同研究で、皮膚や末梢臓器におけるSRRの役割などを明らかにした。吉田らは、シナプス形成分子の結晶構造解析を基にして、プレシナプスとポストシナプスのシナプス形成因子の相互作用の構造的基盤を明らかにした。特にプレシナプス分子のPTPRDが、これまで家族性変異が自閉スペクトラム症に関わると考えられていたポストシナプス分子のNLGN3と相互作用し、社会性発達を調節することを見出した。石本らは、神経細胞の軸索髄鞘形成期のオリゴデンドロサイト特異的に発現するBCAS1遺伝子ノックアウトマウスで、ミエリン形成不全、統合失調症様の行動変化、炎症関連遺伝子の発現増加などを見出した。また、新たな分子の機能イメージングを可能とするタンパク質プローブやアルブミンの新たな検出方法の開発を進めた。井上らは、ストレスによる記憶修飾の分子機構解析を行い、扁桃体外側核のグルココルチコイド受容体が、ストレス負荷時の過剰な恐怖反応の抑制に関わることを見出し、長期恐怖記憶の形成に関わるエングラム細胞の解析を進めている。和泉らは、神経活動依存的な遺伝子発現を検出可能なマウス系統を開発し、環境因子である農薬暴露がシナプス形成などの神経発達に与える影響を明らかにした。また、ゲノム編集技術を新たに導入確立し、遺伝子破壊マウス、点変異導入マウスの作製を進めた。この技術確立により、学内外の多くの研究室と共同研究を進め、多くの遺伝子操作マウス系統の作出を行っている。(森 寿)61第2章 医学部・附属病院 分子神経科学講座
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