神経病理学分野では、世界に類を見ない試みとして、約3000の法医解剖例に対し、死因を問わずに免疫染色を施行して、診断、研究を続けてきた。特に、転倒事故や自殺剖検例に生前未診断の神経変性疾患が多数隠れていることを見出した疫学的神経病理研究は高い評価を受けるとともに、てんかんや遺伝性疾患を中心として、遺伝子解析結果を併せた症例解析の成果が多数の英文誌に公表されている。また、神経病理研究の一層の円滑化、将来的な学外への症例供与を見据えて、2020年に「富山大学法医ブレインリサーチリソースセンター」を設立し、病理標本や遺伝子の蓄積、保管体制の整備を進めている。過去10年に講座教員が代表者として取得した研究費としては、基盤研究Bを2件(西田、畑)、基盤Cを3件、若手研究を2件、民間財団研究助成2件のほか、12件の学長裁量経費を獲得している。学部学生に対する医学教育における法医学分野の役割は相対的に高いとはいえないが、この10年における研究医養成プログラムの修了学生は予定を含め8名であり、6本の英文論文が掲載された。法医学大学院への進学者はなかったが、4名が法医学講座で研究を行って学位を取得し、2名が現在研究中である。懸案事項として、多くの業務内容、特に組織標本作製を遂行するための技術職員の不足がある。富山県では衛生検査技術系の大学がないこともあって、非常勤雇用による臨床検査技師の確保が非常に困難であり、各種活動に多大な支障をきたしている。講座の業務内容の重要性や実績を正しく評価いただき、技官の適切な配分が行われることを希望したい。(西田尚樹)当講座は2007年7月に西田尚樹が講座主任として着任し、現在に至っている。現教職員は畑由紀子准教授(2017年助教から昇任)、一萬田正二郎助教(2019年採用)、小松祐貴技官(2024年採用)、前川美雪教務補佐員(2017年採用)、奥村浩子事務補佐員(2007年採用)であり、研究協力員として山口由明、吉田幸司博士が所属する。なお、長きにわたり講座顧問として業務や後進指導に従事いただいた山本修氏(前新潟労災病院技師長)が2020年逝去された。氏の功績は講座の発展に不可欠であった。深く感謝し、ご冥福を祈りたい。また、2023年に助教1名が増員となり、長年の懸念事項であった不完全講座状態が解消された。医学部長をはじめとする関係諸氏に感謝したい。講座と富山県警の協力の下、県内異状死体の剖検率は高く保たれ、剖検数は年間200体前後で推移してきた。各教職員の献身的な協力、スキルアップにより、解剖時間の短縮、多数の病理組織標本作製に取り組み、質の高い鑑定と研究活動の両立に務めている。剖検率、質とも全国トップレベルと自負しており、実際に全国から難解法医解剖例の再鑑定や心臓突然死例の病理、遺伝子検索を多数受託している。当講座の研究は法医学講座としては世界的に例を見ない内容であり、学外からは広く注目されている。研究は心臓突然死研究、アミロイド病理と神経病理学研究が3つの柱である。心臓突然死研究は、西田を中心とした病理組織学的解析と畑による次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析結果を統合して形態―分子相関検証を中心に展開する研究手法が高く評価され、英文誌への掲載、国内学会シンポジウム等の発表実績を重ねてきた。また、畑は長年小児科患者の遺伝子解析を担う一方で、バイオインフォマティクス技術者を取得し、がんゲノムエキスパートパネルのアクティブメンバーとして病院診療へも貢献している。その他、小児科、第2内科の協力のもと、突然死遺族の健康診断、経過観察を行い、剖検を端緒とした突然死の予防活動も継続してきた。関係各位に深謝する。病理専門医である一萬田はアミロイド病理の研究に精力的に取り組み、着任後早期から多くの原著論文やアミロイドに留まらない希少剖検例の報告を多数作成し、近年は病院病理部の診断業務にも参画して幅広く活動している。69第2章 医学部・附属病院 法医学講座
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