医学部50周年
86/268

本講座は、平成23年3月に甲斐田大輔が富山大学に特命助教として着任した際に、先端ライフサイエンス拠点 甲斐田研究室として開設された。その後、平成28年4月に甲斐田が医学部の准教授に昇任したことに伴い、医学部 遺伝子発現制御学講座として所属、名称が変更され、現在に至る。その間、研究員として、古賀光徳、佐藤崇之、吉田真弓、石田健の4名が所属した。古賀は民間企業へ、佐藤は富山大薬学部の助教として転出した。吉田と石田は医学部に再入学した。また、研究支援員として、小森香苗、林めぐみ、安吉佳奈子の3名が所属した。 教育は、学部教育として「医科分子生物学」の講義を一部担当している。大学院教育として「基礎臨床医科学概論」、「遺伝子発現制御学特論」を担当している。また、研究室配属や研究医養成プログラムにおいても学生を受け入れている。研究医養成プログラムでは、所属学生が第一著者となる原著論文を2報報告している。研究は、低分子化合物を用いた遺伝子発現機構の制御とその応用に関するものである。甲斐田は、長年mRNAスプライシング機構の阻害剤であるスプライソスタチンA(SSA)を用いた研究を行っており、本学着任後も、SSAによるスプライシング阻害が転写の伸長を抑制することを見出し、その詳細なメカニズムを解明した(Kogaetal.,2014,2015)。加えて、SSAやSSA同様にスプライシングを阻害する低分子化合物プラジエノライドB(Pla-B)が細胞周期をG1期およびG2/M期で停止させるメカニズムも解明した。SSAやPla-Bで細胞を処理することにより、スプライシングが阻害され、未成熟なmRNAが細胞内に蓄積する。そのような未成熟なmRNAは異常なmRNAとして認識され速やかに分解されると考えられるが、一部の未成熟なmRNAは翻訳され本来のタンパク質より長さの短いタンパク質が産生される。実際に、細胞周期関連因子の1つであるp27のpre-mRNAが翻訳されることにより、C末端の欠損したp27*が産生され、このタンパク質が細胞周期を正に制御するサイクリン/サイクリン依存性キナーゼ複合体を強力に阻害することにより細胞周期をG1期およびG2/M期で停止させることが明らかとなった(SatohandKaida,2016;Kaidaetal.,2022)。SSAやPla-Bは、もともと非常に強い抗がん活性物質として単離されており、この発見がこれらの化合物が抗がん活性を発揮する分子メカニズムのさらなる理解に大きく貢献したと言える。さらに、SSAで細胞を処理することによりp27のmRNAが安定化することも見出した(KaidaandShida,2022)。その結果、p27のタンパク量も増加し、この現象もSSAの持つ抗がん活性の分子基盤の1つであると考えられる。現在、これらの知見をもとにして、新たな分子標的に対する抗がん剤の探索などに関する研究を行っている。科学研究費は、甲斐田が若手研究(A)、基盤研究(B)、挑戦的研究(萌芽)などを研究代表者として獲得した。また、甲斐田は2014年度科学技術分野の文部大臣表彰若手科学者賞を受賞している。学会活動としては、甲斐田は日本RNA学会の編集幹事を務めた(2018年~2022年)。日本生化学会「生化学」誌企画委員、および生化学会北陸支部幹事を務めている(2024年~)。また、第19回日本RNA学会年会(2017年)において世話人、日本遺伝学会第91回大会(2019年)においてプログラム委員をそれぞれ務めた。(甲斐田大輔)72 遺伝子発現制御学講座

元のページ  ../index.html#86

このブックを見る