整形外科学講座は1978年4月に辻陽雄教授が千葉大学より着任し開講した。臨床・研究活動として、脊椎脊髄疾患を中心テーマに新たな手術法の開発、脊椎外科医の育成、そして脊椎・椎間板・馬尾神経・電気生理などの領域で先進的研究が行われてきた。この間「基本腰椎外科手術書」に代表される優れた著作を始めとして、後世に引き継がれる多数の臨床・研究成果を挙げることができる。辻教授は整形外科教室を、礎から成長へ、そして大きな発展へと導き、また1995年から医学部長に就任し、医学系研究科看護学科の発展にも尽力した。次いで1999年7月に木村友厚教授が大阪大学より赴任した。整形外科の専門領域が大きく広がる中で、脊椎外科・関節外科・骨軟部腫瘍・リウマチ整形外科の専門性の高い整形外科の育成に力を注いだ。2009年富山大学との合併など大学・大学病院を取り巻く環境が大きく変わる中で「考え、真理を目指し、高い診療能力を持つ整形外科医」の輩出を目的に指導力を発揮した。2019年10月からは3代目の川口善治教授が講座の長としての任に当たっている。川口教授は本学の7期生であり、これまでの二教授の薫陶を受けた。脊椎が専門であり、OPLL、椎間板ヘルニアなど脊椎疾患の病因の解明と安全な外科治療法の開発を目指してきている。教室のモットーはYKK、Y:優しく(患者さんに)、K:厳しく(自分に)、K:(皆で協力して)、である。同門からは千葉大学出身で和歌山県立医科大学の玉置哲也教授、東京女子医科大学の伊藤達雄教授、加藤義治教授、また金沢医科大学リハビリテーション科の松下功教授を輩出している。また本学では金森昌彦教授が2009年から富山大学大学院医学薬学研究部人間科学(1)講座で教鞭をとっている。関連病院として同門会員が富山県内を中心に新潟、長野、福井県下の病院に赴任し、富山赤十字病院、富山労災病院、高岡市民病院、糸魚川総合病院、飯山赤十字病院、あさひ総合病院、黒部市民病院、坂井市立三国病院、高志リハビリテーション病院、西能病院などで活躍している。臨床・基礎研究では頚椎椎弓形成術(enbloccervicallaminoplasty)が開発され、これが国内外に普及し、今日の一般的な手術手技となったことは特筆すべきである。その後も頚椎疾患に対する本術式の20年以上の長期成績が詳細に検討され、報告されてきている。また脊髄における電気生理学的研究では、世界に先駆けて行われた脊髄刺激脊髄誘発電位の検討から大脳誘発複合筋活動電位にわたる一連の研究が行われ、その成果が臨床に還元され、現在はリスクの高い脊椎手術時に必要なモニタリング法になっている。その他、脊椎のナビゲーション手術も先駆けて行われてきたが、現在は新規3Dガイドを用いての低侵襲手術、また2021年12月に導入された脊椎ロボット手術、あるいは高度脊柱側弯症に対する治療など次々と取り組みが行われている。一方、後縦靭帯骨化症の病態や椎間板変性や椎間板ヘルニアにおける遺伝的背景についての研究成果が挙げられてきた。候補遺伝子ブローチやGWASでこれらの疾患の感受性遺伝子のいくつかが解明されてきている。その知見は、将来の疾患の早期診断や治療法戦略の開発につながることが期待される。さらに骨軟部腫瘍領域では四肢再建の新たなデバイスが開発され、すでに臨床的に使用されている。関節疾患領域では、関節リウマチなどに対する新たな薬物療法、関節破壊メカニズムとその制御、人工関節置換術での軟部組織バランスや2D-3Dの動作解析などを駆使した関節安定性研究、computerassistedsurgeryなど関節機能改善のための治療の発展に向けた取り組みが行われてきている。手外科領域では、腱癒着予防の研究や末梢神経障害の画像解析による新たな臨床的検討が押し勧められている。特に当科で積極的に用いているwideawakehandsurgeryの手法は、患者の手の機能を術中に評価できる点で非常に優れていると国内外から評価を受けている。基礎的研究では、破壊関節の修復を目指して、間葉系細胞やその他の移植法による関節軟骨修復研究が行われ、無細胞単体の移植でも関節修復が可能となることが前臨床研究で示され、今後ヒトへの応用が期待される。またSIK3による骨代謝の影響が明らかとされ、今後骨粗鬆症治療の応用を目指している。骨軟部腫瘍では、腫瘍の増大や易転移性のメカニズムが引き続き追及され、新たな化学療法へ展開する研究も行われている。一方、関節軟骨変性に関わる分子の1つが明らかとなり、これをターゲットとする阻害剤が見出され、それを投与することで関節軟骨変性の進行が阻止できることが発見された。今後さらなる展開が期待される。また脊椎椎間板変性の新たな治療法に向けて候補力が検討されている。これらの臨床・基礎研究の多くは、取得された多数の科学研究費助成事業、厚生労働科学研究費/AMED事業など競争的資金の支援を受けている。(川口善治)84 整形外科・運動器病学講座
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