2121武田薬品工業株式会社 医薬研究本部 清水 久夫(H15 卒業・H17 修士・H20 博士) 私は製薬企業で研究職として働いています。現在勤務している製薬企業では、画期的新薬を患者さんに届けるという共通の目標のもと、グローバル規模で新薬の研究開発に取り組んでいます。新薬の開発は、ターゲット探索、化学合成、薬効評価、毒性評価、薬物動態評価、製剤設計、そして臨床試験と多くの時間と労力がかかる非常に困難なミッションです。私はその中でも薬物動態を評価する研究に従事しており、現在、主に血中の薬物濃度を分析する仕事に携わっています。研究所では日々新しい候補化合物が見出されますが、候補化合物は低分子化合物から核酸・ペプチドなどの高分子化合物まで多岐に渡ります。さらに薬物本体のみならず代謝物やバイオマーカー等も高感度に分析することが求められます。私はそれら化合物の特性を見極めた分析法を開発することで、新薬の開発に貢献するやりがいを感じています。私は学部・大学院を通して富山大学で学びましたが、社会に出た現在、大学で得た専門知識や経験が自分の科学者としての重要な土台になっていると実感しています。独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 再生医療製品等審査部栗林 亮佑(H15 卒業・H17 修士・H28 博士)私は、現在、バイオ医 薬品の品質審 査業務、バイオ後続品の承認審査業務に携わっています。バイオ医薬品(例:抗体医薬品、抗体薬物複合体、二重特異性抗体)の品質審査では、製薬企業が提出する品質の結果が主な審査内容になります。品質の審査では、バイオ医薬品の作り方(製造方法)の確認から、製造された医薬品が予め設定された管理項目(規格)に適合するか、臨床現場での使用にあたって貯蔵方法(例:2 ~ 8℃で保存)や有効期間を検討する安定性について審査を行っています。近年では、細胞外小胞治療薬やマイクロバイオーム創薬等の新たなモダリティに関する品質のガイドラインや留意事項の作成に携わっております。岐阜薬科大学薬学部 副学長兼教授 五十里 彰(H6 卒業・H8 修士・H11博士) 私は富山で生まれ育ち、富山医科薬科大学(現在の富山大学)で学位を取得後、静岡県立大学薬学部の教員になりました。薬学部に入学した頃は、薬 剤 師の道しか 知らず、製 薬 企 業、大学、研究所、行政機関など、多くの活躍の場があることを知って進路に迷うこともありましたが、熱心にご指導いただいた先生方の姿を見て、研究を続けたい思いと薬学教育に携わりたい思いが強くなり、大学教員としての道を選びました。 現在、私は岐阜薬科大学の生化学研究室で、がんの新しい治療標的の同定と治療薬の開発を目指して研究に取り組んでいます。大学では、すぐには役に立たないような基礎研究から医療現場に密着した臨床研究まで、幅広い研究を実施することが可能です。なかなか期待する結果が得られませんが、思いがけない発見に遭遇することがあります。このように探しているものとは別の価値あるものを見つける能力を“セレンディピティ”と呼びます。セレンディピティを高めるためには、幅広い知識と経験が必要なため、学生とともに日々勉強の毎日です。薬学を志す皆さんがこれからどのような職業を選ぶにしても、失敗を恐れず新しいことに挑戦し、多くの経験を積んで欲しいと思います。 私は富山大学薬学部・大学院博士課程で、分子生物学と脳神経科学の基礎研究を行ってきました。ちょうどその頃、人工多能性幹細胞(iPS細胞)技術が世界に報告されました。この新しい技術の登場は、「ヒトの神経細胞を用いて病気の仕組みに迫る」という未来を意識させ、私の研究への向き合い方に大きな影響を与えました。 その後、慶應義塾大学医学部の研究員として、難病の神経変性疾患の患者さんの細胞からiPS 細胞を作成し、試験管内で脳神経系への分化誘導や病態再現、治療候補薬の探索を行ってきました。その候補薬のひとつは、第 I/IIa 相臨床試験を終え、第 III 相試験に進もうとしています(2025 年時点)。 現在は、愛知県の藤田医科大学で、精神疾患研究に取り組んでおり、幹細胞を用いて病態解明や創薬・再生治療ができないかと日夜試行錯誤しています。また同時に、複雑な脳機能をシャーレ内で再現する新技術の開発に取り組むため、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の訪問研究員としても従事し、生物学にとどまらず、化学・物理・数学の知見を融合させる学際的な連携を続けています。 私は決して要領の良い学生ではなく、ことあるごとにつまずいてばかりでした。しかし、富山大学ではそのような私でも一人の研究者として尊重してもらい、多くの挑戦の機会と支援をいただきました。その経験が、今の自分を支える大きな原動力となっています。 私は、富山医科薬科大学(現・富山大学)の博士前期課程(修士)を修了後に臨床開発職で製薬会社に入社し、以来ずっとこの仕事に携わっています。臨床開発は、細胞や動物レベルでの非臨床試MSD 株式会社 高瀨 明子(H10 卒業・H12 修士)験から期待されるくすりなどの候補化合物の有効性や安全性が実際に人でも認められるかを臨床試験(治験)で確認する、医薬品/ワクチンの研究・開発の最終段階を担当します。仕事の内容は多岐にわたり、私の場合は、開発戦略の検討、第Ⅰ相から第Ⅲ相にわたる治験の計画立案や実施、治験実施医療機関との対応、申請資料作成、厚生労働省やPMDAによる審査の対応など、幅広く経験してまいりました。多くのメンバーから成るチームで「1日でも早く新薬を患者さんに届ける」というゴールに向かって日々取り組んでいます。自分が関わった新薬によって患者さんの救命に繋がることもあり、とても大きなやりがいを感じられる仕事です。 「くすりの富山」の地で薬学の基礎を学び、研究室生活を送り、競技スキー部で薬学・医学・看護の仲間と共に活動したことのすべてが今の私の貴重な財産となっています。また、バイオ後続品の承認審査では、品質、非臨床、臨床での先行バイオ医薬品との比較等を通じて、先行バイオ医薬品に対する同等性/同質性が示されているかを審査しています。どの業務も国民の健康増進につながる仕事であるため、大変やりがいのある仕事であると感じています。富山大学薬学部では基礎から臨床まで様々な薬学の世界を勉強・経験することができます。その中から、自分の興味のある進路・分野に挑戦し、自分自身の新たなフィールドを創っていってください。薬学部の卒業生はどの富山流『くすりのスペシャリスト』である本学薬学部卒業生は、いずれもそれぞれの職場でその「研究者魂」をいかんなく発揮し、高い評価を受けて活躍しています。大学で学生と共に新薬開発を目指す再生医療・幹細胞技術を用いた脳科学への挑戦藤田医科大学 精神・神経病態解明センター 石川 充(H18 卒業・H20 修士・H23 博士)製薬会社で臨床開発業務に携わる製薬企業で研究職として働く審査する行政機関では富山流「くすりのスペシャリスト」へのインタビュー
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