富山大学理学部案内2022
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左図:ピンク色が実験値。シミュレーションを黄色で示したフルポテンシャル法での結果に近づけることが目標。緑線と青線の結果は、どちらも黄線の結果に類似したものが得られた。右図:物質の隙間を架空のボールで埋めた様子計算の力で未知の物質を解析するこのページでは、学生が先輩たちにインタビューし、研究内容を分かりやすく紹介します。 先端技術を支える新物質の探索には、その性質を原子レベルで理解することが不可欠だ。近年、実験と並行して、物理や数学を基にしたコンピューターシミュレーションで分析する手法の進歩がめざましい。 物理学科に所属する伊藤真弥さんは、ナノ研究を手がける畑田圭介研究室でこうした手法の開発に取り組んでいる。現在広く使用されている「多重散乱理論」に基づく、さらに精度の高いプログラムだ。確率の手法で精密に調べる 物質の構造や性質を調べるには、電磁波を照射し、内部の電子の振る舞いをとらえる。原子の種類によって振る舞いがみられるエネルギーの大きさが決まっているため、与えるエネルギーを変えながら物質を調べることで、どんな原子か推測できる。 この振る舞いは結晶構造によっても変化する。実験で得た答えとコンピューターではじき出した理論値を比べることによって、ようやく構造が決定できる。 問題は、ダイヤモンドのように複雑な結晶構造を持つ場合、理論的な予測が実測値とかけ離れてしまうことだった。 畑田研究室では、これを解決するため、「フルポテンシャル法」と呼ばれる手法を編み出した。この方法では原子が不規則に並ぶような物質の隙間を、セル(原子核を持たず、電荷のみを持つもの)があると仮定して計算する。伊藤さんは確率に基づいたモンテカルロ法を使って、応用範囲の広い手法にしようと奮闘している。研究を保つモチベーション 「研究が大変だと感じるのは、プログラムを動かしてもエラーになってしまったり、アルゴリズムが自分の思い通りに動いてくれなかったりするとき」と伊藤さん。そんなときは、悔しい思いもあるが、研究はとても楽しみながらやっているという。伊藤 真弥(いとう まさや)令和2年度 大学院理工学教育部物理学専攻修士課程修了出身地:愛知県趣 味:料理 伊藤さんのモチベーションは、自分のプログラムで計算された結果が未知の物質の解析の手助けになることだ。「研究は少なからず人や社会のどこかに役に立っている。」自分の研究がどんなところで役立っているのか調べることで、研究への情熱を維持している。物理からIT,AIへ 物理学科を選んだ理由は「物理が世の中の知の最先端だと思ったから」。学部生時代はヨット部に所属し、平日は週三回、長期休みは週五回の部活に励んだ。バイトにも精を出し、勉強する時間はほとんど無く、大学4年まで院へ進学するつもりはなかったという。 そんな伊藤さんが現在の研究室に入った理由は、物理学科にいながらプログラミングが学べることや、物理学的な問題を数学的な視点から解決することに魅力を感じたからだ。そして、物理への興味がIT、AIや深層学習にシフトし、プログラムやアルゴリズムを手がけるようになった。グローバルに活躍したい 卒業後は大手IT企業への就職が決まっている。目標は、人々の身近なところで使われるアルゴリズムやコードを書くことだ。最後に伊藤さんは「理学部生は大学院に進んだ方がいい。問題解決能力、ロジカルシンキング力が身につく」とアドバイスしてくれた。この研究紹介記事は以下の授業で作成したものです。「科学コミュニケーションII」主講師:元村有希子(毎日新聞社論説委員)担当教員:川部達哉(数学科)、島田 亙(生物圏環境科学科)学生による学生のための 研究者レポート 理学部の若き研究者たちの最新情報を公開16研究者レポート

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