航空機ジェット燃料を直接合成できるオンデマンド触媒の開発
~「ゲームチェンジングテクノロジー」による低炭素社会の実現~

 富山大学大学院理工学研究部の椿範立教授らは、Fischer-Tropsch(FT)合成注1)を用いて、航空機ジェット燃料を直接合成することに成功しました。
 FT合成は、合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を用いて、軽油あるいは軽質オレフィンを合成する触媒反応です。合成ガスは、天然ガス(シェールガス、メタンハイドレートを含む)、バイオマス、石炭、可燃性ゴミ、重質油等の広範な原料を熱分解して得られるため、工業的に極めて重要な製造法となっています。実際に、各石油メジャーは主に天然ガスあるいは石炭から合成軽油を製造しています。
 椿教授らは、約10年前にカプセル触媒の開発に着手し、数年前、本触媒を用いたFT合成によりガソリンを直接合成することに成功しました。しかし、ジェット燃料の直接合成は本触媒では困難でした。ジェット燃料に求められる高発熱量・燃焼性の良さ・安定性等の基準を満たすためには分岐の多い炭化水素構造(イソ体炭化水素)が適していますが、本触媒ではその選択率が極めて低かったためです。
 椿教授らの研究グループは、この課題を解決するために触媒設計を見直し、酸点と細孔構造を精密制御したゼオライト注2)上に、希土類元素であるランタンと金属コバルトを担持した新しい酸性ゼオライト担持触媒の開発を行いました。この触媒を用いると、FT合成におけるイソ体炭化水素の選択率が格段に向上し、ジェット燃料の選択率が72%と非常に高い触媒性能を達成しました。また、二酸化炭素と水素を用いても高い反応成績が得られました。
 さらに、この触媒の担持金属をランタンからセリウムに変えるとガソリンが、カリウムに変えると軽油が合成できることも見いだしました。このことから、本触媒系は「オンデマンド触媒」として各種燃料製造に極めて有用と言えます。

 EUによる2020年からのバイオジェット燃料の商業使用の決定を背景に、航空業界では、バイオジェット燃料もしくは二酸化炭素由来のジェット燃料の実用化が大きな課題となっています。今回開発に成功したジェット燃料製造法は、バイオマスあるいは二酸化炭素をも原料として使用できるため、航空業界の要望に速やかに対応できると期待されます。

 本研究成果は、2018年9月17日16時(英国時間)に英国科学誌「Nature Catalysis」のオンライン速報版で公開されました。

プレスリリース [PDF, 322KB]