慢性期の脊髄損傷を改善する新しい薬物とメカニズムを発見~筋萎縮と軸索断裂の両方を回復させる分子を骨格筋から分泌させる薬物治療~

 富山大学・和漢医薬学総合研究所・神経機能学分野の東田千尋(教授)、小谷篤(大学院生)、菊池高弘(大学院生)らの研究グループは慢性期の脊髄損傷を改善する新しい薬物とメカニズムを発見しました。

 事故や外傷による脊髄損傷では、損傷した脊髄より下位の神経支配領域において運動機能障害や感覚機能障害が生じます。脊髄損傷は受傷後の経過時間により、急性期・亜急性期・慢性期に分類されます。特に慢性期まで経過した脊髄損傷では、麻痺や感覚障害の回復は非常に難しく、臨床現場でも基礎研究レベルでも、確立された有効な治療法・治療薬はまだありません。
 本研究グループでは、慢性期の脊髄損傷が難治性である理由について「動かせなくなったことで萎縮する骨格筋」に着目し、萎縮した骨格筋に働きかけ萎縮を改善することのみならず、骨格筋から何らかの神経活性化因子を分泌させるような画期的な薬物の発見を目指しました。
 スクリーニングの結果、化合物Acteoside(アクテオサイド)に活性を見出しました。損傷後慢性期に移行した脊髄損傷マウスの萎縮した後肢骨格筋に、アクテオサイドの注射を開始したところ、有意に運動機能が改善しました。また、アクテオサイド投与によって、骨格筋の萎縮の回復、脊髄の中を走行する軸索の密度の増加、筋肉を支配する運動神経への軸索の投射の増加が見出されました。さらに、アクテオサイド処置をすることで骨格筋から分泌されて中枢神経系へ移行する分子として、pyrvate kinase M2 (PKM2)を初めて同定し、PKM2が、軸索伸展促進作用と、骨格筋増加作用を併せ持つ新しいマイオカイン(骨格筋から分泌される機能分子の総称)であることも初めて明らかにしました。

 これらの結果により、難治性である慢性期脊髄損傷に対する新しい有効な治療戦略として、アクテオサイドという薬物と、カギを握る分子としてのPKM2の役割を世界で初めて示しました。
 本研究グループではこの研究成果に基づき、今後さらに「筋萎縮や麻痺に対する、アクテオサイドを含有する和漢薬の有効性を検証する臨床研究」を計画しており、ヒトに対する医薬品開発へと繋げる具体的な展望を持っています。

 これらの成果は、学術雑誌 Journal of Neurotrauma(Mary Ann Liebert社(本社米国)が出版する国際学術雑誌)において公開されました(公開日 2018年10月15日)。

プレスリリース [PDF, 264KB]