鰭(ヒレ)を食べるアフリカの魚にも利きがあることを発見

 富山大学大学院医学薬学研究部(医学)竹内 勇一 助教、医学部医学科5年生(研究医養成プログラム)山田拓人さん、および愛媛大学、龍谷大学、名古屋大学、マラウィ大学で構成される国際共同研究チームは、アフリカ・マラウィ湖に生息するシクリッド 注1)科魚類Genyochromis mento(ゲンヨクロミス メント)が、他の魚のヒレを摂食するのに特殊化した歯や下顎骨をもち、獲物への襲撃方向(右または左)には個体ごとに好みがある(=利きがある)ことを明らかにしました。
 ヒトの利き手に代表されるように、精巧な動作や力強い動きをするときに、身体のどちらか片側を好んでよく使う「利き」が様々の動物で報告されています。魚類でもアフリカ・タンガニイカ湖に生息する鱗食性シクリッド科魚類(以下、鱗食魚 注2))Perissodus microlepis(ペリソーダス ミクロレピス)が明瞭な利きを示すことが知られています。しかし、利きの出現パターン(どんな魚種のどのような行動に利きが現れるか)や進化要因は分かっていませんでした。本研究グループは、他の魚の鰭(ヒレ)を摂食する「ヒレ食」を鱗食魚とは独立に、進化の過程で獲得したアフリカ・マラウィ湖のシクリッドG. mento(以下、ヒレ食魚)を用いて、外部形態と捕食行動を解析しました。その結果、ヒレ食魚は集団中に獲物の左から襲うことを好む「左利き」と、右から襲うことを好む「右利き」がいることを今回初めて発見しました。
 これまでに、魚食魚やエビ食魚でも捕食行動に利きが報告されていることから、「逃げる相手を襲うタイプの捕食魚の摂食行動には利きが現れる」という仮説が導かれます。また、利きの強さには種間差があることも今回見出され、それには食性や進化的時間スケールの違いが関係すると考えられます。さらに、魚類からほ乳類までの脳の基本構造は共通であるため、利きの仕組みは脊椎動物で共通している可能性が高く、魚類の利きの研究を通じて、利きの成立起源や制御メカニズムの解明に繋がることが期待されます。
 研究成果は、英国科学雑誌「The Journal of Experimental Biology」(英国時間12月3日付)にて公開されました。

【用語説明】
注1)シクリッド:スズキ目シクリッド科(カワスズメ科)魚類の総称である。主な分布域は、アメリカ大陸とアフリカ大陸であり、淡水から汽水に生息する。アフリカ古代湖のシクリッドは爆発的種分化を遂げたことで知られ、ビクトリア湖では約300種、タンガニイカ湖では約250種、マラウィ湖では約800種が記載されている。
注2)鱗食魚:ここでは、アフリカ・タンガニイカ湖に生息するシクリッド科魚類 Perissodus microlepis のことを指す。この魚は他の魚を襲い、身体のウロコをはぎ取って摂食する。成魚の場合、その胃内容物はほぼ100%ウロコで占められる。著しい左右差をもつことから、行動学や進化学の教科書にもしばしば紹介されている。

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