世界初、自己触媒機能付き金属触媒反応器を3Dプリント技術で作製

富山大学学術研究部工学系椿範立教授らは、レーザー加工と3Dプリンターを用いて、高温・高圧の過酷な条件下でも使用可能な「自己触媒機能付き金属触媒反応器」の作製に世界で初めて成功しました。

多くの化学工業プラントには多量の担持触媒(注1)を充填した高温・高圧型の大型反応器が用いられていますが、触媒・設備の低コスト化、小型化、省エネルギー化に向けて、反応プロセスや設備の革新が求められています。椿教授が率いる研究グループは、レーザー溶融噴射技術を用いた高融点金属の3Dプリント技術を活用し、精密にコントロールされた微細構造を有する金属反応器の作製に成功しました。次いで、内面を化学処理することにより微細金属表面に触媒機能を付与し、「自己触媒機能付き金属触媒反応器」の創出に至りました。この反応器は、従来の触媒反応器と同様、高温・高圧条件下でも使用可能です。

この技術を用いると、反応管内にかさ高い担持触媒を充填する必要がなくなり、多くの触媒反応器を小型化でき、設備投資・触媒コストの低減につながります。さらに、プラント自体を劇的にコンパクト化することで、従来技術ではスペース的に難しかった洋上生産・車両・船舶上での生産にも展開できます。

応用反応例として、二酸化炭素の水素化から液体炭化水素燃料の合成、メタンと二酸化炭素の改質反応(注2)などの高温・高圧条件下での反応において、高い活性と長い触媒寿命を実証しました。また、日本が世界をリードしている海底メタンハイドレート(注3)の利用において、洋上液体合成燃料の高速生産を含め、幅広い応用範囲が期待できます。

本研究は、国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)彭 小波 研究員、富山大学楊 国輝 准教授と共同で行ったものです。

本研究成果は、2020年8月14日午後6時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されました。

本研究成果は、科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業 探索加速型「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域(運営総括:橋本 和仁)の研究開発課題「二酸化炭素からの新しいGas-to-Liquid触媒技術(研究開発代表者:椿 範立)」の一環として行われました。

なお、本技術は富山大学らによって特許出願されました(出願番号:特願2020-93320)。

<用語解説>

注1)担持触媒
シリカやアルミナなどの不活性な多孔質担体物質上に、微粒子状の金属などが担持された触媒。工業プロセスでは、担持触媒を反応管に充填したものが金属触媒反応器として使用される。
注2 メタンと二酸化炭素の改質反応
二つの温室効果ガスであるメタンと二酸化炭素から合成ガスを製造する触媒反応である。合成ガスは上述の通り、多くの化学製品・燃料に展開されている。
注3 メタンハイドレート
海底噴出される天然ガス(ほとんどメタン成分)が海水と形成したメタンの水和物である。燃える氷と呼ばれている。全世界の埋蔵量が石油より多い。日本が世界初でメタンハイドレートの商業採掘に成功した。

プレスリリース [PDF, 521KB]