平成20年 年頭挨拶

「平成20年・仕事始めのご挨拶 -『ステップの年』を迎えて-」

西頭学長富山大学の教職員の皆さん、明けましておめでとうございます。富山大学は、平成20年という新しい年を迎えました。

私は平成20年を「新たな気持ち」で迎えました。些細(ささい)なことですが、これを契機に、私がこれまで使ってきた「言葉」に新しい意味を込めたいと思います。二つの言葉を紹介します。
ひとつは「新しい富山大学」、あるいは「新生富山大学」という表現を使わないようにすることです。平成17年秋の再編・統合から平成18年、19年、20年と、三回も新年を迎えた現在、「三大学統合による新大学」気分から脱却すべきだと考えています。今日、多くの既存大学は全力疾走しています。本学もこれまで以上にこれらの大学と競わなければなりません。
もうひとつは、五福キャンパス、杉谷キャンパス、そして高岡キャンパスという富山大学そのものをいくつかに分けるような呼び方はもうそろそろ止めたいと思います。最大の理由は、本学の会議やフォーラムの場などで急速に一体感が醸成されているからです。この仕事始めの会でも、皆さんは実態としては三キャンパスに分散していますが、双方向通信システムを通して一堂に会している点を重視して、早速、キャンパス毎ではなく、「富山大学の教職員の皆さん」と全員に呼びかけさせていただきました。

歴史の悠久の流れや季節の変化に、いくつかの「区切り」があるように、私は、富山大学の発展プロセスを区分し、特色づけて、新たな気持ちで、世界に羽ばたき、地域から愛される、強靭な富山大学づくりに挑戦するつもりです。
私は統合後、富山大学の発展プロセスをフィールド競技である三段とびの「助走」、そして「ホップ・ステップ・ジャンプ」になぞらえてきました。そして、平成18年は「助走の年」、昨年の19年は「ホップの年」と呼びました。
三段跳びの難しいのは、助走後の踏切線から三つの跳躍の最後の着地点までの距離を測定して、勝負を決めることにあります。勝つためには自分の運動能力を熟知して、三つの跳躍のバランスを取ることが大切です。はじめの「ホップ」に力を入れ過ぎると、あとの「ステップ」「ジャンプ」の二つが小刻みな跳躍になり、結果として距離が伸びなくなり、負けてしまいます。
私は、平成20年を第二の跳躍、「ステップの年」にしたいと思います。そのためには、これまでの18年の「助走の年」と19年の「ホップの年」の議論を整理し、今年どのような議論をすべきか、その展開方向を明確にする必要があると思います。

はじめに、富山大学の改革に関する議論の流れを整理します。昨年6月の評議会で全評議員がメンバーになる「学生教育組織検討部会」と「教員組織検討部会」が設置されました。その後、二つの部会では集中的かつ多面的に議論を積み重ね、今日に至っております。したがって、現在進行している改革では、「学生教育組織の再編」と「教員組織の再編」が二本の柱となっています。つまり、これら二つの根幹的な再編は可能かどうか、が富山大学発展のカギを握っているとも云えます。
学生教育組織再編の狙いは、第二次中期目標・中期計画を含む、今後約15年間における教育ニーズを的確に把握して、それに対応できる教育システムを整備し、実質的に教育成果を挙げることに尽きます。ところで、このような総論はさておいて、現実の議論の場では具体的な個々の課題にどう取り組み、富山大学の教育システムにどう反映するか中心となります。
これまでの学生教育組織部会の議論をフォローすると、私には短期的な課題と中・長期的な課題が同時並行的に話し合われているように思われます。
短期的な課題とは、県内の医師・看護士不足、年間千名を越す現職教員の再研修、県内企業の求人難などの諸問題であり、これらは解決に急を要する身近な政治的政策課題として浮上しています。統計を分析すると、地元出身学生の県内定着率が高いことから、「地域枠の設定」や「特別奨学金貸与制度」等が考えられていますが、これらには最終的な法的拘束力がなく、抜本的な解決策にはなり得ないといわれています。

これらの短期的な課題に取り組むことは大変重要なことであり、富山大学も全学的に協力しなければなりません。しかし、学生教育組織再編の議論ではより本質的な中・長期的な課題への取り組みが欠かせません。
中・長期的な課題とは、富山大学がわが国の高等教育機関のひとつとして、「学問の継承」と「新分野開拓による知の創造」という、いわゆる本来的な使命を果たすための組織再編です。富山大学は多様な教育研究分野をもつ総合大学であり、これら二つの使命を果たすには、才気煥発な若者をできるだけ多く確保し、創造的な人材に育て上げて、21世紀社会で大いに活躍して貰わねばなりません。

ところが、近年優秀な学生の確保や大学卒業生の就職について、根本的な問題点が指摘されています。学生の学力低下問題を契機に、現在の入試制度のあり方が問われています。これは、現行の入試制度が少子化による受験人口の減少と大学の急増との間(はざま)で、充分な選抜機能を発揮できなくなったことを意味しています。特に地方に目を転ずると、予想外に少子高齢化のテンポが速く、限界集落といわれるように、地域社会は崩壊しつつあります。地方は「縮み」始めているのです。
ここで見落としてならない点は、このような地域社会構造変化の問題は、大学が単独で解決できないことです。もしかすると、処方箋はないかも知れません。国公私立を問わず多くの大学では、入学者の「量的確保」が最優先され、もはや高等教育は維持できなくないという声が聞こえてきます。
また、大学卒業2、3年後の転職増加を契機に、大学における就職対応のあり方が問われています。これは経済のグローバル化による企業間競争の激化と学生の多様化・モラトリアム化との間でミスマッチが多発していることを意味しています。危機感を共有する大学と企業によるインターンシップ事業も参加学生が少なく、十分な成果を挙げていません。近年、この問題もわが国の国際競争力と社会保障制度の維持の観点から大きな社会問題になっています。優秀な学生確保の問題と同様に、大学が単独で解決できないものです。

したがって、私は、学生教育組織再編の議論では、特に三つの点に留意すべきと思います。第一に、教育ニーズが短期的なのか、中・長期的なものなのかを充分に吟味して峻別すること。第二に、その教育ニーズに対応する本学の現行教育システムの問題点を洗い出すと同時に、その社会的な背景を分析し認識すること。そして第三には、教育システムの再構築に当たっては、富山大学の全学的なシステムとして総合的に検討すること、の以上三点です。

以上のような教育ニーズ、本学の教育システムの問題点、社会的背景をトータルに考慮するとき、「ステップの年」における議論は、学生に対していかにしたら「充実した教育」を提供できるか、に焦点を絞るべきです。つまり、創造的な人材の育成を主目標に、カリキュラムを共通教育から学部専門教育を経て大学院専門教育に至る時間的な流れの中に明確に位置づけて、大学教育を段階的に進める以外にないと思います。このような地道な作業が、富山大学が地元から信頼され、注目され、進学先として選ばれることに結びつくと思います。また、そのような教育体制が卒業生の社会に順応できる基礎体力を涵養するものと、私は確信しています。

ところで、冒頭で現在進行している改革では、「学生教育組織の再編」と「教員組織の再編」が二本の柱であり、議論の根幹部分と述べました。しかし、二つの組織に対する理解に若干、混乱があるように思われます。最後に、これらを簡潔に整理しておきます〈文末の注記を参照〉。
学生教育組織とは 学生のための学位レベルに応じて組織的に教育を行う組織です。学生や院生の研究活動の成果が「学位」であり、もちろん、改革論議では、組織的な教育体制としての「学位課程」の確立のあり方が中心になります。ところが、現状では、個々の教員の研究だけが存在していて、「学位課程」にふさわしい組織的な教育については不十分だと云わざるを得ません。つまり、学生は学位レベルとその分野毎に達成しなければならない能力を習得できるよう、設計された学習課程で学ぶ必要があります。
他方、教員組織とは、高度で多様な学生教育を行うため数の限られた教員を配置した組織である、と定義できます。そこでは、教員は自らの研究成果を学位レベルとその分野の教育に応じて加工して、学生に体系的に教える義務があります。つまり、教員組織は高度で多様な教育を実施するため学生教育組織から分離された組織なのです。研究を教育から分離した組織ではありません。
ここで決して忘れてならないのは、大学は教育と研究の統一した場だということです。その意味では、もし研究が主眼であれば研究所で、教育が主眼であれば専門学校でそれを行えばよいということになります。
現在、富山大学では「共通教育の一体化」「人文社会芸術系大学院の整備」「教員評価」などについても議論されていますが、時間の関係でこれらを省略します。ただし、この教員組織に関連して、21世紀COEプログラムに触れておきたいと思います。現在のプログラムは平成19年度で終了しますが、新たなグローバルCOEの獲得に向けて全学的に支援していきたいと思います。同時に、今後、富山大学の特色を活かした複数の大型プロジェクトの獲得に向けて、現状に倍して戦略的に取り組みたいと考えています。

私はかねがね教育には三つの特色があると思ってきました。それは「時間がかかること」「やり直しがきかないこと」「当事者、つまり学生と教員・職員の意欲が教育効果を大きく左右すること」の三つです。このことは一人の学生の教育だけではなく、教育研究機関である富山大学の発展プロセスにも当てはまると思います。
富山大学が大きく発展するには、「時間がかかります」。改革の時期を逸すると、「やり直しがききません」。「当事者であるわれわれ教職員の取り組み意欲が大学の将来を大きく左右します」。私は平成20年という「ステップの年」を実りあるものにする決意です。教職員の皆さんと共に、明るい未来に向かって大いに羽ばたきたいと思います。
最後に、教職員の皆様、並びご家族のご健康とご多幸を祈り、仕事始めのご挨拶といたします。

注:この定義については、舘 昭『「教育と研究の分離」は大学の自殺宣言』(カレッジマネジメント139, 7-8月号、2006)を参照した。

平成20年1月4日
富山大学長 西頭 德三