平成19年度入学式 式辞

平成19年度入学式風景

式辞

本日、富山大学は、学部入学生と大学院入学生とが一堂に会する「合同入学式」を初めて挙行することができました。本日の入学式には、学部生1,976名、大学院生448名、高岡短期大学専攻科生37名の総勢2,461名が列席されています。教職員一同は、ご来賓の方々や先輩らと共に、この日を心待ちにしていました。まず、富山大学を代表してお祝いの言葉を送ります。入学おめでとう。ご家族の方にも心からお喜び申し上げます。

私は21世紀社会を築き上げなければならない新入生に対して、是非、本学で学んでほしいことを述べ、式辞とします。

まず、学部生の皆さんに述べます。皆さんは厳しい学力試験などを通じて、意欲ある学生として入学を許可されました。今、口では言い表せない大きな開放感に浸(ひた)っていることでしょう。もちろん、志望学部に合格したときのあの感激を忘れず、4年後にその成果をしっかりと手にしてほしいのですが、私はそれだけに留まってほしくありません。学部在学中にごく当たり前なこと、「常識ある人物」になるよう務めてほしい。

今日の社会が21世紀社会の担い手やリーダーに求める能力は二つあります。一つは社会の中で特定の機能を果たすための能力。これは専門学部で高度な専門的な知識を身に付けることを意味します。もう一つは、社会で人格者として振舞える能力、つまり、教養豊かな社会人ということです。

早速、「何を今さら教養なのか」との反論があるでしょう。残念ながら、「官製談合と汚職」「原子力発電所の事故隠し」「研究費流用」「番組捏造」など、現実社会のリーダー、知識人の犯罪がマスコミに登場しない日はないのです。

人間は一人孤立して生きていません。社会的な存在として生きています。教養はよりよく生きるための「判断力」と「行動力」を与えてくれます。本物の教養は「知識」と「思考」と「体験」が相俟って身につくものです。一般的に、「あの人は教養がある」という時、往々にして物知りであること、「博識」を意味します。ところが、教養人としての判断力や行動力を身につけるには、学習により知識を獲得するだけでは駄目です。日ごろの個人的な体験やアルバイト、旅行など社会的な諸活動を通じて体得する必要があります。

そこで、新入生の皆さんはこの入学式の後、専門科目ばかりでなく、教養科目を学ぶことになっています。しかし残念ながら、大学における教養教育は時間的制約などから、前者、つまり知識を身に付けることに限定されます。その意味で、大学の教養教育は教養を身につけるための一つのきっかけに過ぎないのです。学部生の皆さんには、この4年間、個人的な体験やアルバイト、旅行など、日常的な社会活動・交流を通じて教養人としての判断力と行動力を身につけてほしい。敢えて云えば、「偉大なる常識人」になるよう務めてほしい。

次に、研究の道を選んだ大学院生に述べます。私は昨年の大学院入学式で、近代科学は専門化・細分化・単純化の道を歩んでいるが、自分の専門は全体の一部分に過ぎないことを自覚し、狭い専門領域におぼれることなく、積極的に他分野に関心を抱いて欲しいと述べました。これに加えて、皆さんには他分野に関心を抱くだけではなく、さらに科学と社会の関係に眼を向けてほしいのです。

20世紀は科学技術と戦争の世紀、つまり光と影の世紀と呼ばれています。それは科学技術が人類に幸せをもたらした反面、全面戦争で大量殺戮が行われたことを意味しています。ところが、21世紀に入っても、この傾向はさらに強まっています。ちなみに、合成物質の開発で住居環境などが飛躍的に向上したものの、その反面、物理的化学的安定性ゆえに重宝されたフロンガスが想定外の悪影響を地球、生態系、生命体に及ぼしています。同様なことは塩化ビニールの開発とダイオキシン、環境ホルモンの発生にも見られます。つまり、現代社会では光と影、ベネフィットとリスクが共存しています。科学技術が急速に進歩しベネフィットが増大すればするほど、それが原因となったリスクが沈下し潜在化し、科学と社会との間に軋轢が生じています。

結論のみ述べます。21世紀を生きる研究者は自分の研究の社会での位置づけ、社会に対して将来与えるかもしれない影響を真摯に考えなくてはいけないのです。皆さんには研究者であると同時に、一社会人であるとの自覚をもってほしい。

最後に皆さんが学生生活をおくる富山の特色を二点だけ紹介します。第一は地理的特色と研究フィールドとの関わりです。富山県は標高三千メートルの立山連峰につづく山並みに囲まれ、北方に水深千メートルの富山湾が展開しています。その中を急流大河川が雪解け水を運んで平野を潤し、富山湾に注いで豊かな漁場を育んでいます。このような地理的特色を「世界でも稀有な高度差4千メートルのダイナミックな地形」、または、「水循環・生命循環モデル」と呼ばれています。富山大学はその中心部に位置しており、「富山が分かれば、地球環境問題全てが分かる」と云える大変恵まれた研究環境にあります。それゆえ、第二の特色は身近で多様なスポーツが楽しめることです。夏は登山やヨット、冬はスキーなどいろいろな課外活動が可能であり、富山は皆さんの学生生活を決して裏切らないでしょう。

「同じ釜の飯を食う」という古くから言い習わされた言葉があります。寝食を共にして苦労を分かち合いながら成果を獲得することをいいます。本学の教職員は学部生や大学院生と共に素晴らしい富山大学と21世紀社会を築きたいと願っています。この豊かな風土で学生生活を満喫し、研究に邁進してください。重ねてお祝い申し上げます。

平成19年4月6日
富山大学長 西頭 德三