平成19年度学位記授与式 告辞

平成19年度学位記授与式風景

告辞

立山連峰も神通川、庄川も人々も多くの生き物たちも、水温み春の光に包まれて、喜びに満ちています。平成17年10月1日に統合した富山大学は、3回目の学位記授与式を迎えることができました。皆さんの門出を祝福するため、ご多忙にもかかわらずご臨席を賜ったご来賓をはじめ、本学ゆかりの皆様方に厚くお礼を申し上げます。
只今、学部卒業生1,733名、大学院修士課程修了生349名、博士課程修了生52名、論文博士4名、そして、高岡短期大学部修了生35名の合計2,173名に学位記を授与致しました。まず、富山大学を代表して、学位記を授与された2,173名の卒業生・修了生の皆さんにお祝いを申し上げます。大変おめでとうございます。また、この日を心待ちにしてこられたご家族の皆様にも、衷心よりお喜びを申し上げます。

そこで、私は本学を卒業された皆さんに、これから心がけてほしいことの一端を述べて、お祝いの言葉といたします。結論から言いますと、心がけて欲しいこととは、「社会の動きを自分の目でしっかり確かめて、常に、その社会現象の意味を考えて行動する」ということです。このように云う背景には、私たちにとって、社会の動きがだんだん見えにくくなり、その意味も理解し難くなっているという現実があるからです。
その原因は20世紀末から、特に加速された経済の巨大化及びグローバル化にあると指摘されています。私たち誰もが、いながらにして世界中の食料品や商品を格安で買うことができます。また、南極大陸に旅行ができるようにもなりました。恐らく数十年前には想像もできなかったことです。これは経済の巨大化・グローバル化の大きなメリットです。その反面、私たちの身の回りで起きる多くの出来事は突発的で、しかも因果関係がはっきりせず、非常に危険であり、その後の展開も予測できません。これはデメリットの一部です。

抽象的な言い方をやめて、最近の身近な出来事を例にこのことについて述べましょう。門出の場にふさわしくない事例かも知れませんが、中国製ギョーザ中毒事件をめぐる一連の議論の中に、私が指摘したい今日の社会的状況が凝縮されているように思われます。ちなみに、この議論の内容は一部マスメディアの農薬混入犯探しにはじまり、日本の港や空港の検疫体制の甘さ、農産物の安全性と低価格の関わり、日本人の食生活のあり方、さらには先進国に比べ極端に低い食料自給率問題まで、多岐に及んでいます。まさに議論百出です。

ここで多くを語る余裕はありませんので、マスメディアのあり方と食料自給率問題についてのみ述べます。マスメディアの役割は、私たちに対して現代社会の複雑で多様な側面をうまく切り取り、分かりやすくコンパクトな現実像を提供することにあります。これにより、私たちはテレビ番組や新聞・雑誌の記事を通じて、自分が立っている位置やこれから進むべき方向を確認できます。この事件は誰もが大きな関心を抱く、大変不幸な出来事ですが、犯人探しはマスメディアの役割ではありません。両国の捜査当局にゆだねざるを得ません。

同様に、科学技術上の問題が起きると、専門家と称する人物が個人的な見解を述べても、マスメディアの情報力によって、それがあたかも科学者集団全般の考えであるように、拡大解釈され一人歩きするようになっています。私たちは早朝から真夜中まで操作され偏った情報の洪水に呑み込まれ、やがて自分自身を見失っていくように思います。
首都圏のある中核都市の市長が朝テレビに出演して、「食料自給率が40%以下とは。こんなに低いとは驚きだ」と発言し、司会者も大きく頷いていました。私にはこの発言こそが大変な驚きでした。食料自給率の低下は50年前から指摘され、大都市のどこの書店にも関連図書が山積みされています。この市長が食料自給率に関心がなかっただけのことです。

これに類する深刻な具体例をもうひとつ述べましょう。環境問題です。約40年前の1972年に刊行されたローマクラブの報告書『成長の限界』は、経済活動がさまざまなコースを辿った場合に、それぞれどこにたどり着くかを12のシナリオで示して警告しました。当時、「世を惑わす予言の書」と大きな非難を浴びました。20年後の1992年に第二作『限界を超えて』が出版され、このタイトルが暗示するように、出版の時点で地球の扶養力の限界を超えたと指摘しました。それから10年後の2002年に、第三作『成長の限界、人類の選択』が出て、2000年時点で、すでに地球の扶養力を20%も越えたとして、11のシナリオを示し、大胆な選択肢として「子供の数を2人に抑制し、一人当たり工業生産を2000年の10%増に留めること」を提言しています。
第三作目の出版から5年が過ぎています。私たち一人ひとりは地球環境問題に対して果たして積極的な行動を起こしたでしょうか。この書にある、「科学者が問題を提起し、政治が動き、消費者が行動して、各国の連携の輪が広がらなければならない」という警告が無視されていると思わざるを得ません。

ここで私が冒頭に述べた、卒業される皆さんに「心がけて欲しいこと」に戻ります。今日も、また将来においても経済の巨大化、及びグローバル化の大波を止められず、その過程で起きる多様な事件への対応に齟齬が発生し、解決に遅れが生じるとすれば、私たち一人ひとりが自立した生活者としてものごとを判断し行動するしかありません。つまり、「社会の動きを自分の目でしっかり確かめて、常に、その社会現象の意味を考えて行動する」以外に方法はないのです。

本日卒業された2,173名の皆さんの中には、直ちに就職し社会で活躍する人、大学院に進学する人、また外国の大学に留学する人、本国に帰国する人など、進路は様々であろうと思います。いずれの方向に進むとも、私は、本学で学んだことを最大限に生かしてあなた方自身の個性ある人生を築いていってほしいと願っています。富山大学の教職員一同は皆さんを応援していきます。
ご卒業、大変おめでとうございます。

平成20年3月21日
富山大学長 西頭 德三