平成21年度9月期 学位記授与式 告辞

平成21年度9月 学位記授与式 告辞

告辞

例年になく暑い夏が過ぎて、立山連峰の紅葉の便りを耳にする季節になりました。

立山連峰が色づきはじめた本日、富山大学9月期学位記授与式において、学部卒業生16名、大学院修士課程修了生6名、博士課程修了生7名、論文博士3名、合計32名に学位記を授与いたしました。卒業生・修了生、並びにご指導くださった教職員の皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、ご家族の方々にも心よりお祝いを申し上げます。

ところで、一昨年のアメリカのサブプライム・ローン問題に端を発した世界的な金融恐慌は、輸出関連産業の不況や失業率の急上昇等、私たちの日常生活に深刻な影響を及ぼしています。このような影響は経済面のみならず、政治面や社会全般に広がっています。しかも、これらの動きは顕在化し、直接眼や肌で感じることさえあります。このような社会現象を「世紀の変わり目」との見解もあります。歴史的な評価は後世の判断に委ねるとして、私は、今、現在を生きる私たち自らが直ちに対応すべき課題は二つあるように思います。

ひとつは、私たちの進めてきた研究のあり方に関するものです。近代科学の急速な発展のプロセスは、「専門化・細分化・単純化」の過程として要約できると思います。確かに、専門化・細分化・単純化は科学技術進歩の原動力となり、その結果、膨大な新知識・研究成果が集積されました。ところがその反面、専門分野が僅かに異なるだけで、相手の研究内容が全く理解できない事態も生じています。
特に最近の典型的な事例として、金融工学の急速な発展に裏付けられた金融派生商品が挙げられます。情報の時代と言われながらも、ごく限られた少数の専門家同士でしか会話が成立せず、他人のことにあまり関知しない「蛸壺」状況が生まれ、それが金融恐慌の引き金になった、と専門家は判断しています。ということから、本日、学位記を授与された皆さんは、自らの専門分野を一層深めると同時に、より広く他分野にも関心を持ち、「自分の立ち位置」を常に確認し続けてほしいと思います。これが第一の課題です。

二つ目は、危機管理の問題です。グローバル化の進展する中で、一地域や一国の経済的な出来事は瞬時に世界中に広がります。また、その変化は経済面に止まらず、社会面、政治面等あらゆる面に及びます。気づいた時にはすでに遅く、私たちの日常生活を根底からひっくり返す事態になり得ることも予想されます。つまり、私たち一人一人は自らの責任で危機への対応力を高める必要があります。卑近な例をあげると、今大学にとって新型インフルエンザの蔓延と大学入試のあり方が大きな課題となっています。
私は、危機管理とは基本的には、いつ起こるか分からない重大事件から一定の組織を守るため、集団内に指示・命令系統を確立することだと理解しています。しかし、その組織を構成する、より小さなレベルの危機管理が十分でなければ、組織全体の危機管理も機能しないと思います。つまり、各個人が主体的に情報を収集し危機回避に対する的確な意志決定ができ、行動できなくてはなりません。危機管理では、上からの「指示待ち」姿勢が最も危険です。
この二つ目の課題は、誰もが未経験であり、今後直面するかもしれない重要な課題です。本日学位記を授与された皆さんには、一社会人としてあらゆるレベルの危機管理でリーダーシップを発揮してほしいと思います。

皆さんの今後の発展と健康をお祈りします。あらためて、大変おめでとうございます。

平成21年9月28日
富山大学長 西頭 德三