平成22年度10月期 入学式 式辞

平成22年度10月期富山大学入学式

式辞

半月前まで約2ヶ月間続いた猛暑も過ぎ去り、平成22年度10月期富山大学入学式は、すがすがしい秋晴れとなりました。本日、富山大学は新たな入学生を迎えることができました。皆さん、ご入学大変おめでとうございます。
本日の入学生は全員が大学院生です。入学者数を大学院別に紹介しますと、経済学研究科の修士課程1名、生命融合科学教育部の博士課程6名、医学薬学教育部の修士課程4名と博士課程8名、そして理工学教育部の修士課程2名と博士課程2名の合計23名となります。そして本日の出席者の中には、10名の留学生がいらっしゃいます。

ところで、富山大学は3日前の9月28日に、24名の卒業生を送り出したばかりです。いつものことながら、卒業生を送り出し一抹の寂しさを感じておりましたが、今日、自らの研究テーマをもち、意欲ある23名の皆さんを本学に迎えることができ、教職員一同大変うれしく思っております。

3日前の9月期学位記授与式では、私は「自立」をテーマに餞(はなむけ)の言葉を述べました。本日も同じテーマで式辞を述べたいと思います。再び「自立」を取り上げる理由にはいくつかあります。昨今のわが国では、「経済の自立」をはじめ、「外交の自立」「地方の自立」等が広く話題となっているように、第1に、私たちは大きな社会変化のうねりの真っ只中に立ちすくんでいると思われることです。このような社会的混迷状況の中で、第2に、経済、外交、地方の「自立」の問題は、結局は、「個人の自立」の問題に還元できると思われることです。さらに第3には、今日、私たちが社会の一員として、あるいは一研究者として、真にどう生きるかが問われていることが挙げられます。
40年前の大学紛争の頃、私は「生活科学」の研究者である一女性から、次のように云われたことがあります。あなたは「個人の自立」と簡単に云うが、それは容易なことではない。ちなみに、一個人が日常生活の場で自立するということは、自分の生活費を稼ぐことは当然として、自分で食事を作り、洗濯をし、寝具を整えて、その後始末も全て自分でするということです。相当の覚悟が必要ですと。つまり、そんな覚悟もなく口先だけで、「自立」を振り回すべきでない、と厳しく諌められたのです。
確かに、「地方の自立」の問題ひとつを取り上げても、当事者には、あらゆる政策の立案・具体化の自由が与えられる反面、主要な財源の確保や政策の失敗の全責任を負わねばならないのです。つまり、権利の獲得には、同時に義務の履行が伴うのです。特に、ここで最も重要なのは、当事者には、「決してぶれない意思決定力」が求められることです。そして、そのような意思決定の前提として、「鋭い分析力」「雄大な構想力」、「弛まぬ持続力」が不可欠となるのです。その意味では、「自立・独立・独り立ち」はそう簡単に口に出来ない、大変しんどい作業です。
そうであっても、私は本日、大学院に進学された皆さんには、「個人の自立」の問題については、常に留意してほしいと願っています。入学式という大変めでたく、かつ希望溢れる場で、決して危機感を煽るつもりはありません。正直に言って、私自身は、昨今の政治・経済・社会的状況の変化に危惧の念を抱き、同時に、国家財政の危機の中にあって、高等教育機関である大学の果たすべき役割、「大学の自立」について問い直すべき時期にあると考えているからです。

今日のわが国の政治と経済は、「失われた20年」と云われるように、90年代初頭のバブル崩壊後、デフレ状態から脱出できず、政治は混迷し、改革は先送りされたままです。この間にグローバル化と産業の成熟化が急速に進展し、多くの産業は低コストを求めて一斉に海外進出しています。恐らく今後もこのような企業行動が続けば、従来型の産業は地球の果てまで行き尽き、最後には利潤ゼロの状態に到達することでしょう。
他方、わが国の社会的な状況も明るくはありません。ちなみに、モンスターペアレント、モンスターペイシェントという言葉が流布することに関して、ある精神科医は自分が理不尽な要求をしているとの自覚がなく、何でも他人の所為(せい)にする「他責(たせき)」人間が急増していると分析しています。また、自殺者も減少傾向を示していません。

わが国が長期停滞から脱出するには、科学技術の発展をテコに、新たなイノベーションにより経済システムのパラダイムを変える以外にありません。これから大学院で研究に従事する皆さんにとっての「個人の自立」とは、若い感性で現実社会から嗅ぎ取った、独自のテーマに自立的に取り組むことです。もちろん、大学は皆さんの研究環境を整える観点から、人材育成という本来的、かつ高度な教育機能を発揮することが不可欠です。つまり、現在以上に「大学の自立」を成し遂げることです。
皆さんはまず、広く現実の社会に目を向け、ごく些細(ささい)な変化も見逃さないでほしいと思います。そんな変化の中に、新たな経済社会を構築するための課題が潜んでいるかも知れません。このことは基礎と応用、理系と文系を問わず、研究者の自立にとって大変重要なことだと思います。
皆さんが本学の大学院において、強い信念を持ち、所期の研究目標を達成し、21世紀社会の再構築に貢献されることを祈念して、式辞といたします。

平成22年10月1日
富山大学長 西頭 德三