平成22年度9月期 学位記授与式 告辞

平成22年9月期 学位記授与式 告辞

告辞

平成22年の夏は、例年になく暑いというより猛暑つづきでした。ところが、9月下旬に入ると、一変して秋の気配が感じられるようになりました。立山連峰も色づきはじめたようです。

本日、平成22年度秋季学位記授与式において、学部卒業生16名、大学院修士課程修了生3名、同じく博士課程修了生4名、そして論文博士1名の合計24名に学位記を授与いたしました。卒業生、修了生、そしてご指導下さった教職員、ご家族の皆さん、ご卒業大変おめでとうございます。富山大学を代表して皆様に心よりお喜び申し上げます。

そこで私は、皆さんに私自身が日頃、感じていることの一端を述べたいと思います。それは「自立」ということです。この言葉は社会生活の様々なレベルで多様な意味で使用されていますが、本日は本学の二つの教育研究活動を事例について述べたいと思います。

富山大学の共通教育には、新入生を対象とした、『立山マルチ・バース講義』があります。この講義は再編・統合を契機に、三つのキャンパスの教員が相互に連携して実施するものです。この講義を創設する過程では、まず従来の大学教育とこれからの新富山大学の教育のあり方が問題となりました。なぜなら、県内の三つの大学の再編・統合は21世紀社会の再構築を指向していたからです。

そこで、一委員から、15世紀の大学では、真理は一つであり、その真理を究明するのが大学の使命と考えられ、一つの真理を意味する「ユニ・バース」が今日の大学、ユニバーシティの語源になったとの見解が出されました。議論を重ねる内に、未来を志向する本学では、ひとつの真理でなく、多様な考え方を相互に理解し合うという意味で、「マルチ・バース」が必要との結論に達しました。この言葉に、富山県の象徴である「立山」を冠(かんむり)として、『立山マルチ・バース講義』が誕生しました。

そしてこの講義では、教員が三つの分野について新入生に語りかけることになりました。それは、「富山学―わたしの富山」「心、身体、そして生命」「感性をはぐくむ」の三つです。つまり、「富山学―わたしの富山」では、富山を深く知ることがよその地域や外国を知るための出発点となり、自分の立ち位置をしっかり確認する。同様に、「心、身体、そして命」では、自分自身を総合的に知り、自分の命の大切さや他人の尊厳について語り合えるようになる。また同様に、「感性をはぐくむ」は他人の考えに共感し語りかけ、世界の人々と共存していく出発点にしよう。要するに、この新たな講義では、自分の立ち位置を明確にし、自分の価値を知り、自分の感性や創造力を磨き、他者を深く理解し働きかけることのできる、現代社会で最も求められている、「自立的な人材」の育成を目指したのです。

本日の学部卒業生の皆さんは、この「立山マルチ・バース講義」を受講されたと思いますが、いかがでしたでしょうか。今後においても、この講義の主旨・狙いを活かしていただけたら幸いです。

去る9月3日、本学の「地域連携推進機構」の主催で、『コラボ・フェスタ2010』が開催され、産学連携、生涯学習、地域づくり、地域医療の4部門の発表に多数の方々が参加されました。私はこの機構の設置及び今回の企画に直接関わりながら、「地域に存在する経済界、県・市町村、そして大学の三者がどう連携したら十分な効果が上げられるか」について、常に悩んできました。まさに連携相手が多様であり、連携方法も様々であるため、対応方針の提示や連携の組織化が大変難しいからです。これは地域連携に係る宿命的な課題かも知れません。

現段階では、私は次のように考えています。問題の核心は各々の連携主体の対応のあり方にあると思います。連携主体が対等に、しかもその活動においては最も得意な分野でどのような効果を狙うか、共通目標を明確にすることです。

大学サイドから対応のあり方を模索するとき、次の二つの社会的条件の変化を考慮すべきです。その一つは、産業の成熟化と急速なグローバル化により、技術革新つまりイノベーションによる方法でしか、新たな経済発展が望めないということ。もう一つは大学の「知の独占」が崩壊し、大学は社会と経済的、人的、組織的に連携して活動する構造体へと変化しつつあるということです。ちなみに、私は後者の条件変化を「キャンパスの社会化」と表現してきました。

大学が地域連携で果たすべき最も重要な役割は、人材育成面で地域社会に貢献することです。つまり、技術革新・イノベーションを生み出せる人材を育成することに尽きます。その意味では、地域連携は一つの事業を関係者が共に協力し合いながら進める、緩やかな連携段階から、各々の連携主体が明確な目標を共有して、最も得意な分野で競い合い相乗的に効果を挙げる第二のステップに移りつつあると思います。要するに、大学は地域連携において、人材育成面で最も本来的な自立的な対応が求められているのです。

以上、本学の二つの教育研究活動を例に、「自立」について具体的に述べてみました。奇しくも、今日のわが国では、経済の自立、外交の自立、地方の自立、そして個人の自立が話題となっています。本日、学位記を授与された皆さんも、現代社会の一員として、また一研究者として、自立的な生き方とは何かを模索して頂けたら幸いです。健康に留意して実社会で活躍されることを祈ります。

平成22年9月28日
富山大学長 西頭 德三